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四十一/ 木造校舎 その四(55/100)

また、こんなこともあったという。授業中、教室のすぐ外の廊下を歩く音がする。前述のように、この校舎の床板は誰かが歩くとギシギシ音を立てる。平素から校長先生や用務員さんなどが授業中も廊下を通り過ぎていくことはあったので、それだけなら別段気にも…

四十/ 木造校舎 その三(54/100)

夏休みが明けてから少しして、研究授業があった。Tさんも、自分の学級の授業を教育委員会の役員や近隣の学校から来た教員に見せることがあった。その時、授業中の光景を後のレポートの資料として使いたかったので、偶々手が空いていた教頭先生に依頼して何…

三十九/ 木造校舎 その二(53/100)

その少し後。 Tさんが掲示物を作るため、担任する教室で夜遅くまで作業していた時のことである。やっと出来上がった時はすっかり夜も更け、同僚もみな退勤していた。 (すっかり遅くなってしまったな) そう思って窓の外をぼんやり眺めていたが、どうも落ち…

三十八/ 木造校舎 その一(52/100)

Tさんが十五年前に教師として初めて赴任した小学校の校舎は、当時既に築五十年近い木造校舎だった。窓や戸は枠が歪んで開け閉めすると大きな音が鳴る。外壁に至っては何箇所も朽ちている始末。歩くとギシギシ鳴る床は板が歪んで隙間が目立つだけでなく、子…

三十七/ 繁盛している美容院(50/100)

Hさんがその美容院に行ったのはその日が初めてだったのだが、入った瞬間「あ、何かおかしい」と感じたという。 それはともかく髪を切ってもらっていると、向かった鏡越しに店内にいる人が見える。この店は結構繁盛しているようで、人の出入りが多い。しかし…

三十六/ 盆の寒天(49/100)

私の父の話。父の好物のひとつは寒天なのだが、ここ数年口にしていなかった。それをふと八月の頭ごろに思い出して「寒天食べたいなあ、砂糖入れただけの単純なやつ」と思ったらしいのだが、特にそれを誰に言うこともせず、自分で作って食べることもしなかっ…

三十五/ 幽霊アパート(37/100)

Aさんが学生のときの話。 アルバイト先で知り合った他大学の学生の下宿している部屋に幽霊が出るというので、面白がってアルバイト仲間三人でそのアパートに遊びに行った。出ると言っても何かが見えるということではないらしく、夜中に変な音が聞こえる程度…

三十四/ 披露宴のビデオ(36/100)

Kさんは三年前までの十年間、ビデオ制作会社に勤務していた。その仕事の中でひとつだけ、どうしても不可解なビデオがあったという。どう不可解かというと、見るたびに音声が変わったらしい。 それは結婚披露宴の様子を映したビデオだったという。途中までは…

三十三/ 背後(29/100)

Sさんは高校生のとき、吹奏楽部に所属していた。 ある日の合奏中のこと。パシーン!という大きな音がして、指揮者が頭を押さえた。定規か何かで勢いよく叩いたような音だったという。指揮者は不思議そうに後ろを振り向くが、何も変わったところはない。皆は…

三十二/ 水滴(28/100)

Mさんが出張でロンドンへ行ったときのこと。予約してあったはずの宿に行くと、手違いで部屋が取れていなかった。どうも予約が一杯らしく、代わりの部屋を用意しろと言っても首を横に振る。Mさんは疲れていて早く休みたかったこともあり、いささか強硬に主…

三十一/ あっ、ごめん(10/100話)

Tさんという女性の話。 その晩彼女は寝苦しさにふと目を醒ました。寝返りを打とうとしたとき、目の前に鏡がある、と思った。何しろ目の前に自分自身の顔があるのだ。自分と向かい合って横になっている。しかし鏡にしてはおかしい。Tさん自身は目を醒まして…

三十/ 百合の匂い(9/100話)

Uさんは子供の頃から同じ夢を何度も見ていたという。見ていたと言うと語弊がある。何しろ目覚めた時には内容はすっかり忘れているらしい。ただ、必ず百合のような強い花の匂いだけが鮮明に印象に残っているという。 彼女が二十歳になって少ししたある日、い…

二十九/ 古戦場 その二

その大学に通っていたEさんは、キャンパスから徒歩二十分ほどのアパートに下宿していた。友人の中でも一番大学に近い住まいだったので、よく友人達の溜り場になっていた。その日も友人三人と深夜まで飲み会をしていた。日付が変わったころ、友人の一人が幽…

二十八/ 古戦場 その一

都内にある某大学はキャンパスがちょうど戦国時代の古戦場にあたるという。そのためか幽霊を見たという話があとを絶たない。特に多いのが「正門付近で武者の幽霊を見た」という話である。腕を失っていたり、首がなかったりする甲冑姿の武者が体に矢を突き立…

二十七/ 糸瓜

Sさんの家では瓢箪や糸瓜を作ってはいけないという戒めが代々伝わっている。Sさんのおばあさんが嫁いできた時に、Sさんのひいおばあさんからくれぐれもと言い含められたそうである。しかし理由については聞かされなかったので、謂れについて知っているも…

二十六/ 牛群

「二十二/ 山道」と同じIさんの、違う山での話。 Iさんが友人二人と山道をドライブ中、突如霧が濃くなってきたのでこのあたりで一度休憩しようということになった。止まっている間に霧が晴れてくれるかもしれない、という期待からだったのだが、三十分経っ…

二十五/ エレベーター その二

Kさんはその日遅くまで残業をし、帰ろうと思ったときには既に十二時を過ぎていた。オフィスに残っているのは既にKさんひとり。非常口の灯りのみに照らされた通路でいつものようにエレベーターを待った。上から降りてくる階数表示のランプを眺めていると、…

二十四/ エレベーター その一

Aさんは学生の頃、幽霊が出ると評判の廃墟へ忍び込んだことがある。 元総合病院であるその建物は交通が不便であることから使われなくなり、十年以上放置されていた。Aさんは友人と二人で夜中の一時ごろにこの廃墟を訪れた。闇の中、崩れて雑草に埋もれた門…

二十三/ うわっ

Oさんはその日、ひどく疲れていたので帰宅して自室に入るなりすぐさまベッドに倒れこんだ。枕に顔を押し付けた瞬間「うわっ」と小さく声がして枕の下で何かがもぞっと動いた。Oさんは飛び起きてベッドから離れると枕を観察してみたが、枕はいつもの見慣れ…

二十二/ 山道

よく晴れた日のこと。Iさんは車で山道を二時間ほど辿ったので、そろそろひと休みしようと思った。トンネルを抜けたところで路肩が広くなっていたので、いいタイミングと思いそこに停車した。外の空気を吸おうと思い、車を降りてドアを閉めたとき思わず「え…

二十一/ 湖を望む

約三十年前の話。ある山間の森にリゾートホテルが建っていた。五階建てのこのホテルには、時々起こる現象があった。五階の宿泊客が、客室から目の前に広がる大きな湖を見るのである。――ホテルの入り口から反対側にあるから来た時は気付かなかったのか。そう…

二十/ 向かいの屋上

Mさんの通っていた高校の校舎は上から見るとHの形をしていて、片方の縦画に各クラスが、もう一方の縦画に理科室や音楽室といった特別教室があった。 ある日の午後のことである。午後の授業は昼食の後なのでどうしても眠気に襲われ、集中力が途切れがちにな…

十九/ 自転車の籠

Sさんの家の近くにはひとつ高校があって、Sさんの家の前の道も通学路になっている。ある日の夕方ふと見ると高校生が三人、自転車を並べて帰ってゆく。そのうちの一台の前の籠に、白髪の老婆がひとり立っている。老婆は籠に足を突っ込んで直立したまま、前…

十八/ お化け飛行機

Kさんの郷里には地域の人から「お化け飛行機」と呼ばれるものが現れるという。 Kさんの実家から山ひとつ越えたところに空港があるので、飛んでゆく飛行機が一日中見える。お化け飛行機はときおり、その中に紛れ込んでいるという。 Kさんが一番最近お化け…

十七/ 古いトンネル

Fさんが学生の時の話。 ある日、暇に任せて友達と夜中に旧○○トンネルに行ってみようということになった。旧○○トンネルというのは近辺では心霊スポットとしてよく知られていた。しかし当日になって、Fさんだけが急用で行けなくなってしまった。しばしの後、…

十六/ 窓の内

Mさんの職場のビルには、ひとつだけ段ボールが張り付けられた窓がある。といっても壊れているわけではない。ガラスはちゃんと嵌っているし、開閉も難はない。 Mさんの会社がこのビルに入ったのは三年ほど前のことだった。引越し作業が終わり、仕事を始める…

十五/ 網戸の外

Tさんの家は山中にあるので、夏になると周囲に虫が沢山発生する。日中にはヤブ蚊と蝉くらいしか気にしないが、日没後明かりをつけると種類を問わず様々な虫が寄ってくる。明かりが漏れる窓には小さい羽虫以外に、セミや甲虫の類が毎晩のようにぶつかってく…

十四/ 足音

その日Hさんは帰りが遅くなって、暗い道をひとりで歩いていた。前後に人通りは全くなかったという。しかし、気が付くと前方から足音がしていた。ハイヒールのものらしき、カツカツという音が聞こえる。 しかしどうもおかしい。 音の大きさからすると精々四…

十三/ 公園の鳥

その日、Hさんは偶々公園のベンチに座って昼食をとっていた。前日の俄か雨で公園には点々と小さい水溜りができていた。コンビニで買ったパンと缶コーヒーを流し込みながら、ぼんやり目の前にある水溜りを眺めていると、不意にそこに波紋が起こった。 風もな…

十二/ 赤い何か

小学校の教員をしているTさんは言う。「やっぱり、子供にはそういうものが見えることもあるみたいですね」 Tさんが受け持っていたクラスに、教室でひどくおびえる児童がいた。仮にA君とする。話を聞いてみると、黒板に向かって左側の辺りに"赤い人"がいる…