二十二/ 山道

よく晴れた日のこと。
Iさんは車で山道を二時間ほど辿ったので、そろそろひと休みしようと思った。
トンネルを抜けたところで路肩が広くなっていたので、いいタイミングと思いそこに停車した。
外の空気を吸おうと思い、車を降りてドアを閉めたとき思わず「えっ?」と声が出た。
車は、たった今まで雨の中を走ってきたかのようにずぶ濡れだった。
フロントガラスにも一面に水滴が付いている。
こんな状態ではワイパーを動かさなければ走れない。
しかしたった今降りるまで四方のガラスに水滴などなかったし、当然ワイパーを動かさずとも走行に全く支障はなかった。
空には雲ひとつない快晴で、周囲の路面も全く濡れていない。
一体車はいつ濡れたというのか。
Iさんには車を降りた一瞬で濡れたとしか考えられなかったが、一瞬でも雨が降ればわかったはずである。
狐につままれたように思ったIさんは、そそくさとその地を後にした。
その後は特に問題もなく山道を抜けた。
次に降りた時には車はすっかり乾いていた。