kwaidan

おわりに

以上、全百話をもってkwaidanは一区切りということになります。読んでくださった方、ありがとうございました。 一晩で全部読めば百物語を完遂したことになり、何か起きるかも知れません。モニターから毛が生えた! とか。実際に何か起きたらご一報ください。…

百/ 定期演奏会 その四

この定期演奏会に関する一連の話は、私が高校生の時にSさんから聞いたものである。私自身、Sさんが所属していた吹奏楽部の十期ほど後の部員で、私が高校生だった当時SさんはOBとしてよく現役の活動をサポートしてくれていた。この話を聞かされたのは、…

九十九/ 定期演奏会 その三

前日のアクシデントが嘘のように本番はほぼ滞りなく進み、三部構成の二部までを終えた。 十分間の休憩を挟んで、さあいよいよ三部が始まるというときに、会場である体育館の天井がダーッ! と大きな音をたてた。どうやら雨が降りだしたらしい。屋根が高いから…

九十八/ 定期演奏会 その二

リハーサル中もおかしなことがあったという。 曲の通しの間、指揮者が怪訝そうな顔をしている。しかし演奏については特に口出しをしない。ならば音以外のことについて何か気がかりなのだろうか。Sさんはそれがずっと気になっていたが、とりあえずそのままリ…

九十七/ 定期演奏会 その一

Sさんが所属していた吹奏楽部は、毎年六月に定期演奏会を開催していた。現在、同校の演奏会場は市の文化会館を使用しているが、当時はまだ文化会館が存在しておらず、市内にある市営体育館を借りて開催していた。Sさんが三年生のとき、すなわち彼の現役最…

九十六/ 二人目

また、こんなこともあった。 ある日、Sさんが朝練をしようと音楽室に行くと偶々一番乗りだった。しばらく一人で練習していると、パッと扉が開いてトランペットのOさんが入ってきた。Sさんが挨拶すると、Oさんもおはよう、と言って奥の部屋へ入ってゆく。…

九十五/ 空耳

二十年近く前、高校生だったSさんは学校の吹奏楽部に所属していた。 ある時、クラスの用事で練習に遅れた彼が練習場所である音楽室に向かうと、到着しないうちに合奏が始まってしまったようで、音が廊下にも聞こえてきた。しかしそれを聞いて、Sさんはいさ…

九十四/ ループ

趣味で絵を描いているHさんは、その日街角でスケッチをしていた。 もう二時間ほど同じ場所に陣取っていたが、ふと気付いたことがあった。何回も同じ人が目の前を通っていくのである。その人は自転車に乗った中年女性で、見たところ特に変わった所のないおば…

九十三/ 瞬間、お地蔵様

Yさんが車にはねられた。十メートル以上跳ね飛ばされて、そのまま勢いよくアスファルトの上に叩きつけられたという。すぐに病院に運ばれたが、随分勢いよく跳ね飛ばされたわりには目立った外傷が不思議なほどない。気を失っていたもののすぐに意識を取り戻…

九十二/ 走る馬

Sさんの経営している画廊に、一枚の馬の油彩画があった。フランスの無名画家の作ながら、草原を走る一頭の馬が躍動感に満ちた勢いある画風で描かれていて、Sさん自身もなかなか気に入っていた一枚だった。 ただ、一つだけおかしなところもあった。カンバス…

九十一/ 銀杏と雀

Tさんが連休を利用して久しぶりに実家に帰省した。仕事が終わってから向かったので、付いた時にはもう深夜で、到着早々部屋に下がって休んだ。 翌朝は小鳥の声で目を覚ました。起き上がってカーテンを開けると、二階にあるTさんの部屋の窓からすぐ目の前に…

九十/ 気配と場所

Kさんが勤める会社が大幅に模様替えした。それまで入り口間際にあった席が壁際に移ったので、人の出入りに気が散らされることも少なくなるかと喜んだKさんだったが、そうも上手くはいかなかった。 机に向かって仕事をしていると、時折目の前にふっと人影が…

八十九/ 隣のお姉さん

Aさんが大学を卒業して間もない頃のこと。家に若い女性が訪ねてきた。よく見れば、隣の家の娘さんである。Aさんより五つ年上で、幼い頃からよく面倒を見てもらっていてまるで姉妹のように仲がよく、またAさんの憧れの女性でもあった。Aさんが大学に入っ…

八十八/ 川沿いのビル

Uさんの住んでいる町に、数年前まである廃ビルが建っていた。もと観光ホテルだった建物で、川沿いに建っており眺めもよく、開業当時はそれなりに繁盛していたというが、それももう三十年ほど以前の話らしく、Uさん自身が知っているのは既に朽ち果てつつあ…

八十七/ プール掃除

Tさんは高校生の時、水泳部に所属していた。初夏になると、冬の間使われていなかった学校のプールの掃除をするのが水泳部の恒例行事だった。 Tさんが三年生時のプール掃除のときのことである。よく晴れた暑い日の放課後だった。プールは前年の夏以来水を抜…

八十六/ 釣り禁止

Hさんが通っていた大学の広いキャンパスの端には、何かの実験用に作られたという小さな池があった。一体何の実験で使われるのか、はっきり知っているという学生もいなかったというが、ただ「この池で釣りをしてはいけない」という決まりだけは皆よく知って…

八十五/ 凧揚げ

Eさんが小学生の頃の話。 近所の河原で、友達二人と凧揚げをしていた。しばらくの間楽しく過ごしていたが、ふとEさんは首を傾げた。凧の数がおかしいのだ。Eさんと友達の分、全部で三つの凧しかないはずなのだが、見上げる先には四つ凧が揚がっている。見…

八十四/ 同乗者

Kさんが以前、通勤にバスを使っていた時のこと。 ある日、どうしても仕事が片付かなかったので帰りが遅くなった。終発一本前のバスにはKさんのほかに二、三人しか乗客がいなかったという。しばらくバスに揺られていると、Kさんが降りるひとつ前の停留所で…

八十三/ 山の温泉宿

Nさんが当時付き合っていた男性と一緒に那須の山中にある温泉宿に行ったときのことという。 宿の周りを散策しているうちに日が暮れてきて、夕食前に一風呂浴びてこようということになった。Nさんが脱衣所に入ると、曇りガラスの引き戸越しに浴場からお湯を…

八十二/ 曇る窓

Kさんは中学生の頃、隣町の学習塾に通うのに路線バスを使っていた。このバスに、一つだけ不思議なことがあった。なぜか、ある所に差し掛かると片側の窓だけ、一斉に結露して曇るのだという。それも季節に関係なく、一年中その現象が見られたらしい。いつも…

八十一/ 二等船室

地名と時期を伏せるという条件で、掲載の許可を頂いた話。 Nさんという男性が旅行中、フェリーに乗った。寝台は二等船室に取った。船酔いが心配だった彼は、日が暮れて早々に寝ることにしたという。幸運にも他の客は疎らで、ゆったり横になることができた。…

八十/ 雑巾がけ

Sさんは、中学生の頃わけあって親戚のお寺に預けられていた。近隣でも大きいほうのお寺で、本堂を半周する長い廊下があった。この廊下が、なにやら陰気な感じがしてどうにも好きになれなかったらしい。 ある晩遅くのこと。Sさんはトイレに行きたくて目を覚…

七十九/ 桜

外を歩いていたEさんは何故かその日に限って、すれ違う人からの視線を感じた。気のせいかとも思ったが、やはり皆自分のことをちらちら不思議そうに、あるいは珍しそうに見ていく。何だろうと思ったEさんは、通りに面したビルのガラス窓に映った自分の姿を…

七十八/ 線香花火

学生時代、Oさんは学生寮に住んでいた。アルバイトが忙しかったのでその冬は帰省せずに寮で年を越したのだが、そんなある日の真夜中のこと。 パチパチという音で目が覚めた。ああ花火か、と半分眠りながら思う。一瞬して、花火? と疑問に思った。そこは寮の…

七十七/ 沸き立つもの

清掃業者でアルバイトをしていたOさん。 担当はショッピングモールの開店前の清掃だった。ある時いつものようにモップをかけていると、通路の隅で何かが動いているのが見えた。ネズミかゴキブリかと思ってそっと近寄ってみたところ、それは動物ではなかった…

七十六/ 新雪 その二

Tさんは日本海に面した豪雪地帯の出身である。 朝、家の前の道を誰かが通ると夜の間に積もった雪を踏む「ぎゅっぎゅっ」という音がする。それを聞きながら目が覚めるのは、幼いころからの冬の定番とも言える出来事だった。雪かきは大変なものの、Tさんは雪…

七十五/ 天井の星

Uさんが旅行で、和歌山の山奥にある旅館に一泊した時のこと。 夜中にハッと目が覚めたそのとき、ここは外なのだろうか、と思った。仰向けに見上げた先は皓々ときらめく満天の星空なのだ。しかし、体はちゃんと布団の中にある。寝ぼけたか何かで外に出てしま…

七十四/ その後の暮らし

お祖母さんの葬儀が済んで少しして、Aさんが遺品を整理していると、使い込まれた大学ノートが押入れの中から二十冊近く出てきた。大事そうに仕舞ってあったので何だろうとぱらぱらめくってみると、日付と出来事が書いてある。日記だ。一番古い日付は約四十…

七十三/ 新雪 その一

その日、Kさんは友達のIさんと二人で学校を出た。 明け方から降っていた雪はだいぶ小降りになっていて、持っていた傘もほとんど必要ないくらいだった。人通りがあまりない道で、雪がずっと降っていたので二人の通ってきた後には二筋の足跡だけがきれいに付…

七十二/ 黒い素麺

Oさんの娘さんは幼い頃、なぜか部屋のコンセントを異常に怖がる子だった。プラグが差してあれば問題はないのだが、何も差していないコンセントがあると、近づくのをひどく嫌がる。なぜそんなに怖がるのか聞くと「黒いそうめんが出てくる」と言う。しかしO…