2019-01-01から1年間の記事一覧

旧友

漁師のWさんの話。海で漁をしていると稀に水死体を発見することがある。Wさんも今まで三度ほど遭遇したというが、その初めてのときのこと。まだ漁師として駆け出しの頃で、小さい漁船をひとりで操り、沖に出て魚を獲っていた。その日も明け方に漁をして朝の…

カレー

Rさんが若い頃に一人暮らしをしていた頃の話。アパートの部屋で食事の支度をしていたところ、玄関のドアを叩く音が聞こえた。何気なくドアを開けると、人の姿はない。しかし足元に茶色の犬がいて、当たり前のような顔をして玄関から入ってきた。どういうわけ…

煙蛇

Yさんが職場で休憩中のこと。いつものように裏口を出てすぐのところで煙草に火を点けた。一口吸ったところでふと気がつくと、煙草の尖端から出る煙がなぜか上に昇らず、下の方にばかり流れていく。煙は拡散せずに、一本の筋状にまとまったまま足元のコンクリ…

もやもや

大学生のEさんが散歩がてら近所のコンビニに行った帰りのこと。雲ひとつなくすっきり晴れた気持ちのいい日曜日で、風もなく穏やかな中をのんびり歩いた。いい陽気のせいか、歩いていても周囲の何もかもが鮮やかにくっきりと見えるような感覚があり、こんなに…

新しい彼女

Kさんが大学生のときの話。友人のM君に彼女ができたというので紹介された。アルバイト先で知り合ったというその女の子は気さくで明るい性格で、Kさんや他の友人たちともすぐに打ち解けた。付き合い始めたばかりだからかM君との仲も良好で、傍から見ていても…

濡れ手

Nさんはある夜に夢を見た。近所の道を歩いていると、すぐ近くを小学生くらいの女の子がもっと幼い男の子と一緒に歩いている。すると後ろから軽自動車が走ってきた。女の子はさっと道の向こう側へと渡り、男の子が数秒遅れてその後を追った。男の子は軽自動車…

レッスン中

小中学生向けの英語教室で事務のアルバイトをしていたKさんの話。一階の事務室で仕事中、玄関正面のカウンターに女性がひとり現れた。教室に通ってきているS美ちゃんという小学生のお母さんだ。Kさんがそのお母さんの顔を見るのはしばらくぶりのことだった。…

携帯がない

Sさんが茨城から兵庫に単身赴任中のこと。毎日、仕事終わりに妻の携帯にメールを送ることにしていた。その日もスマートフォンから簡単な文面でメールを送信し、アパートに向かった。ところがいつもはすぐに来る返信がその日はなかなか来ない。アパートに着く…

出ていったもの

Eさんは大学生の頃からよく金縛りになった。寝ているとふっと目が覚める。意識ははっきりしているのに体が動かない。初めてそうなった時には動揺したが、また眠って起きたときには体が動くようになっていたし、回数を重ねるごとに慣れてしまった。体が動かな…

緑の棒

十年ほど前、Kさんが中学生の頃に通っていた塾で、授業中に何かの流れで先生がこんな話を始めた。 今日ここに来る途中で、変なものを見たんですよ。車で走ってると、なんとなく視界の端に緑色のものがちらちら見えるような気がするんです。気のせいかなと思…

印刷所

印刷会社で働くFさんは会社の二階にある事務室で仕事中、強い眠気を覚えた。寝不足だったわけでもなければ、特に疲れていたというわけでもない。調子がおかしいなと思いつつ、同僚にトイレに行ってくると告げて事務室を出た。トイレの手洗い場で顔を洗い、つ…

屋根瓦

Tさんの家は台風で屋根に被害が出た。災害保険の申請のために、Tさんは隣の家の二階に上がらせてもらって自宅の屋根の被害状況を写真に収めた。裏返った瓦、剥がれて落ちてしまった瓦、めくれはしないものの浮いてしまった瓦など、少なくない被害があり、Tさ…

サンタさん

二十年ほど前のクリスマスイブのこと。Kさんは自宅で四歳の娘と夕食を取っていた。夫は仕事で遅くなるということで二人だけだったが、せっかくのクリスマスなのでケーキくらいは用意した。娘はケーキを頬張ってすっかりご機嫌だったが、半分くらい食べたとこ…

うろの中

幼い頃から小動物が好きだったOさんはよく虫取りに行った。中学校の裏手が森になっていてそこで虫がよく取れるので、Oさんは頻繁にそこへ行っていた。 小学生の頃のOさんが夏のある日この森に行ったが、どうにも虫が見当たらない。石をどかしても落ち葉をか…

洞窟

Yさんが彼氏と二人で旅行したときのこと。ホテルに泊まったその夜、Yさんはふと目を覚ました。時計を見るとまだ深夜だ。なぜこんな時間に目が覚めたのだろう、疲れていたから眠りが浅かったのだろうか。そんなことを考えながらまた眠ろうと思ったが、ふと違…

防災倉庫

Nさんの実家のある街に防災倉庫と呼ばれる建物がある。コンクリート製で箱型の建物で、街の隅に位置する公園に隣接している。防災倉庫と呼ばれている通りにかつては地区の防災用品や備蓄品を収めた倉庫だった。公園に隣接して建てられたのはその公園が地区の…

工房

退職後に趣味で陶芸を始めた人の話。軽い気持ちで始めたところ随分熱中してしまって、ついには山中の空き家を買って窯を設置し、工房にしてしまった。月に十日ほど、一人でそこに籠もって作品制作に没頭するのだという。ところがその工房で頻繁におかしなこ…

傘の下

Mさんが高校生のときのことだ。バス通学だったMさんは、放課後にバス停まで友人と並んで歩いていた。朝から冷たい雨が降り続いていた二月の夕方で、二人とも傘をさしていた。いつものようにおしゃべりしながら歩いていたところで、唐突に友人の話が止まった…

水鬼

高校生の夏、Fさんは友人たちと三人で海釣りに行った。バスで三十分ほどのところにある海岸の堤防に陣取って朝から釣っていたのだが、この日は妙に波も風も穏やかな日で、そのせいなのか何なのか、全く釣果が上がらなかった。以前に同じ場所で釣った時にはそ…

写真週刊誌

Tさんが中学生のときのこと。ある日の放課後、部活動が休みだったのでTさんは友達と遊びに行くことにした。一旦家に帰ってから友達と合流し、自転車で買い物に行く途中。道端の草むらがガサガサッと音を立てたと思うと、バサッと何かが前方の路上に飛び出し…

バックモニター

市内に新規オープンしたスーパーマーケットにEさんが買い物に行ったときのこと。開店翌日の日曜日、流石に客が押し寄せている様子だった。駐車場の入り口でEさんは守衛に止められた。もう満車だから、道なりにもう少し行ったところにある臨時駐車場に駐めて…

浜足

Kさんが大学生のときの話。彼氏が運転免許を取ったので、二人で海までドライブに行った。まだ肌寒い時期で、天気はよかったが海辺には人の姿がなかった。貸し切り状態だね、などと話しながら浜辺を歩いたが、冷たい風が海からひっきりなしに吹き付けてくる。…

浮く大家

Nさんが学生時代に住んでいた学生向けアパートは寿司屋に隣接しており、大家もその寿司屋の店主だった。入居してから聞かされたことだが、このアパートは“出る”と学生の間でも評判の物件とのことで、実際Nさんも何度か納得いかない体験をした。誰もいない隣…

落語

友人と行った旅行の帰り道、Wさんが運転する車で常磐道を走っていた。いくつかのトンネルを抜けたところで、ふと視線を上げると白いものが見える。木の幹から真っ白い女の上半身が生えていた。だめだ。見てはいけないものだ。 反射的に視線を前方に戻し、見…

小人の国

Hさんという男性が肩に届くくらいまで伸ばしていた髪をばっさり切った。こんなことがあったからだという。 あるとき、自室のベッドで起きた瞬間に髪を引っ張られる感覚があった。ベッドのフレームに髪が絡まっていて、起き上がったときにそれがピンと張った…

松葉杖

Eさんは高校三年生の春から、受験対策として予備校に通い始めた。学校が終わってから予備校に向かい、授業が終わって電車で帰ってくる頃にはもう夜十時を過ぎるのが毎度のことだった。駅から自宅までは自転車で線路沿いの道を辿るのが一番の近道だった。街灯…

野球応援

Nさんという高校生から聞いた話。七月になるとNさんの所属する吹奏楽部は野球部の夏の大会に応援に行く。これには現役部員だけでなく、有志の吹奏楽部OBも参加できることになっている。だから毎年、現役部員の他に十人程度のOBが交じって応援歌を演奏する。…

よしひろだけど

ある日の午過ぎ、Yさん夫妻の携帯電話が同時に鳴った。同時にかかってくることなんて珍しいなと顔を見合わせてから携帯の画面を見ると、番号が表示されていない。いたずら電話か詐欺のたぐいだろうか、と身構えながら電話に出た。 「ああお父さん、俺。よし…

書斎の足音

Iさんのお父さんが単身赴任で家にいなかった時期の出来事だという。当時中学生だったIさんが夜中にふと目を覚ますと、隣の部屋を誰かが歩き回る足音が聞こえた。隣の部屋はお父さんが書斎として使っているが、そのお父さんはいない。こんな夜中に誰が書斎に…

そろそろ寝なさい

高校生のMさんが真夜中に自室で学校の課題を進めていた。 部屋全体が明るいと気が散るので、スタンドライトだけ点けて机に向かっていた。午前二時頃、集中しているおかげか、それほど眠気も感じていなかった頃のことである。 「そろそろ寝なさい」 横からそ…