2024-01-01から1年間の記事一覧
Rさんが以前住んでいた街には銀杏の並木道があり、Rさんは毎日そこを通って仕事に行っていた。寒くなってくるとそこは落葉で一面が黄色に染まる。付近の住民や清掃業者が時々落葉を片付けているようで、道路脇に落葉の山ができていることもある。それでも後…
農家のWさんは自分の田んぼ以外に、Kさんの田んぼも請け負って耕作している。Kさんは江戸時代から続く農家で、広い田畑を持っている。しかし本人が高齢で子供たちも農業を継ぐ気はないため、田畑のほとんどを他の農家に委託するようになっていた。そのKさん…
大学生のNさんが、ある講義でグループを組んでレポートを作ることになった。同じグループになったのはたまたま近くの席だった同学年のEさんとKさんで、手分けして資料を揃えてからまとめることになった。締切の三日前の夕方にKさんの部屋に集まり、夜七時前…
Sさんの家の隣は空地になっている。以前はそこに立派な家が建っていたのだが、住んでいた家族が引越してしまい、それからすぐに取り壊されて更地になった。その家族とは親しくしていたわけではないからSさんは家の中に招かれたことがなかったが、外観からし…
仕事帰りに買い物をしようとスーパーに寄ったFさんは、青果売り場から鮮魚売り場へと歩いていったところで思わず足を止めた。鮮魚の陳列棚を眺めている一人の客がいる。こちらに背を向けて立っている。顔は見えないが、中年女性のようだ。その女性の胴体に大…
Kさんが大学二年の夏休み、友人の帰省に一緒について行って一晩泊めてもらったことがあった。友人の両親は暖かく迎えてくれて、Kさんはその日泊まる部屋として和室に通された。客間兼仏間の八畳間で、仏壇と床の間がある部屋だった。仏壇に飾られている写真…
Nさんという女性が街を歩いているときのこと、ほんの十数メートル先で交通事故が起きた。直進してきた車に横から飛び出したもう一台の車が突っ込んだのだ。衝突して二台ともその場で動かなくなった。周囲の店から出てきた人や歩行者たちが数人、車に駆け寄っ…
高校生のSさんが夜中にふと目を覚ますと、眼の前がいやに暗い。夜中なら暗いのは当たり前なのだが、Sさんはいつも明かりを点けたまま寝るので、部屋が暗くなっているのはおかしい。それも単に暗いのではなく、何だか目の前に真っ黒い壁がある。そして身体が…
Rさんは普段日記など付けないのだが、旅行をしている間はその日の体験をメモ帳に記録するようにしている。撮った写真とあわせて、後で旅を追体験するのに役に立つ。時間が経って旅の記憶が薄れてきた頃に見返すとまた面白い。先日、収納を整理していたRさん…
Kさんが大学を卒業して最初に就職した会社は絵に描いたようなブラック企業だった。激務と高圧的な上司のせいで一年も経たないうちにすっかり憔悴してしまったKさんだったが、当時は就職氷河期の真っ只中で、せっかくありついた就職口をすぐ手放すのも怖かっ…
Uさんが高校生の頃のことというから十五年ほど前である。学校から帰る途中、見慣れないポスターが目についた。道端の電柱のちょうど目の高さあたりにA4サイズくらいの印刷物が貼られている。人の写真に重ねて大きな文字が横書きで並んでおり、初めは政治家の…
Bさんが高校三年生の秋のことだという。夜中に受験勉強をしていたところ、ふと喉がカラカラになっていることに気付いた。喉が渇いているばかりでなく、なんとなく体が火照っている。時刻は午前一時近くになっていた。喉の乾きも忘れるくらい熱中していたらし…
Kさんが高校生のとき、友人たちと一緒に下校途中のこと。談笑しながら歩いていると、友人の一人が何か言いかけたところで唐突に言葉を切った。顔を見ると何やら呆然とした面持ちで他所を見ている。そのままふいっとKさんたちの傍を離れて道路の反対側へと渡…
千葉に住むFさんのところに遠くから友人が訪ねてくることになった。高速道路を降りたという電話があり、それならあと二十分くらいで着くだろうと思っていた。しかし一時間待っても来ない。ナビがあるというから大丈夫だろうと思っていたが、なにか不都合があ…
老人養護施設で働くRさんから聞いた話。彼が働いている施設は玄関の反対側が梨畑に隣接している。施設の一階からは梨畑の端しか見えないが、二階の窓からは並んで植えられた木々の奥まで見渡せる。ある日の午後、Rさんが二階に上がっていくと、同僚の介護士…
Cさんが大学を卒業した年の夏、お母さんが亡くなった。交通事故だった。お母さんはつい数ヶ月前に卒業と就職のお祝いをしてくれたばかりで、冬にはお父さんと二人で海外旅行をする計画を立てていた。Cさんもこれから働いて稼いだお金で今までの感謝の印にプ…
Rさんの家は利根川の堤防から徒歩五分くらいのところにある。だからRさんはよく利根川の堤防の上を散歩する。堤防の下の川縁にはよく釣り人がいるのだが、Rさんは滅多にそちらまで降りていくことはない。どういうものが釣れるのかというと、コイやフナ、ブラ…
Mさんの父は釣りが趣味だが、あるとき釣り道具を持って出かけた父は魚ではなくカメを持って帰ってきた。釣りをしていたところ近くの岸にいたので、網で捕まえたのだという。緑がかって細かい縞があり、目の後ろに赤い斑がある。北米原産、ミシシッピアカミミ…
二十年ほど前の五月、Rさんが三歳の娘と近所を散歩していたときのこと。手を繋いで歩いていたところ、ふと気づくと娘が反対側の手に細長いものを握っている。割り箸だった。なんでそんなものを持っているのだろう。家から持ってきたはずもないから、Rさんが…
茨城でスナックを経営するUさんの話。コロナ禍より三年ほど前のこと、店にひとりの客が入ってきた。初めて見る顔だった。その町には江戸時代から続く夏祭りがあり、普段は閑散とした田舎町だがその期間だけは帰省者と観光客で溢れる。このときはその祭りが終…
釣り好きのBさんがよく行く釣り場で糸を垂らしていたときのことだという。そこは利根川の下流で、川岸に点々と葦が群生しており、そういったところの周囲に魚が潜んでいることがよくある。Bさんお気に入りの場所だった。昼食後にすぐ釣り始めて、日が傾いて…
高校生のBさんが両親と一緒に外出して帰宅したときのこと。父は車を車庫に入れるので、Bさんと母が先に車を降りて家に入った。玄関の鍵を開けた母が先に靴を脱いで上がり、Bさんがその後に続いた。手を洗おうと洗面所に向かう途中、リビングの様子が目に入っ…
Cさんの夫が癌で手術を受け、入院生活を終えて帰宅した。若い頃から登山が趣味で体力に自信があった夫だったが、手術と投薬で弱ってしまい何かと疲れを訴えるようになった。その日も昼食を取ってから少し休むと言って夫は寝室に入った。一時間ほどしてからC…
Bさんの自宅の裏手は崖になっていて、その上に物置や作業場に使っている小屋がある。春先のある日、知人から古民家を解体したときに出た古材をいくらか分けて貰ったので、それを使って棚でも作ろうと、Bさんは崖上の小屋の前で作業をしていた。鋸で切りそろ…
Rさんが友人たちと三人で夕飯を食べに行った。店を出て少し歩いてから友人たちと別れ、一人になった。少し歩いてからバスの待合所に入り、椅子に腰を下ろした。待合所に他の人の姿はなく、白々とした蛍光灯の明かりの下、Rさんはスマホをいじりながら一人で…
Uさんが五歳の甥と散歩に出かけた。利根川の支流、小野川沿いを二人で歩いていると、川岸に繁った草むらの一部がガサガサ動いている。何かいるのかと土手の上から眺めていると、草の中からヌッと顔を出したものと視線がぶつかった。それが人かどうか、よくわ…
Rさんが中学生の頃、家族のアルバムを見ていてふと気づいたことがあった。赤ちゃんの頃の自分の写真では、手首にお守りらしきものがくくりつけられているのだ。物心つく前のことだから自分では全く覚えがないのだが、その頃の写真では常に自分の手首にお守り…
Sさんが友人の住むアパートを訪ねたときのこと。昼時になったので、何か外に食べに行かないかと友人に提案した。すると友人は、昼はそうめんにしようと思ってたんだけど、と言う。折角だからもっといいもの食べに行こうぜとSさんが言うと、そろそろそうめん…
Wさんが商談で宇都宮に行ったときのこと。相手のオフィスはビルの六階にある。エレベータを降りて廊下を進んでいくところでふと窓の外に目をやった。隣のビルの屋上が眼下に見える。そこに黒いボールがひとつ、ポンポンと弾んで横切っていく。屋上に人の姿は…
Gさんが彼氏と一緒に旅行中、たまたま通りかかった神社に立ち寄った。本殿に向かって二人並んで柏手を打ち、道中の安全を願ってから彼氏のほうを向くとまだ手を合わせて祈っている。その姿に違和感がある。原因はすぐにわかった。髪型が違うのだ。いつも短く…