年越し当番

Nさんの家の近くに小さな神社がある。
地域で大事にされているお社で、年に何度か行事がある。そのひとつが年越しで、当番になった三人がお社の前で火を焚いて夜通し番をする。
Nさんもある年の年越し当番のひとりになった。夜十一時頃に社殿の前で火を焚きはじめると、日付が変わる頃に地域の人々が続々と集まってきた。
日付が変わる前と後の二度、人々が参詣を済ませると当番は彼らにお神酒を振舞う。それで人々は帰っていくわけだが、当番はそのまま夜明けまで社殿で過ごす。
時には都合によりもっと遅い時刻にお参りする人もいるというが、その年は夜明けまでもう誰も来なかったので当番だけでちびちびお神酒をすすりながら朝を待った。
雑談をしたりスマホを眺めたり、のんびり過ごしているうちにようやく明け方になってきたので、そろそろ片付けるかと外に出た。
空は明るくなりつつあったが、まだ日は昇ってきていなかった。
片付けると言っても大したものはない。焚火に使ったドラム缶を社殿の裏の納屋に片付けてしまえば、あとは持ってきたものを持ち帰るだけだ。
Nさんたちは今年もよろしくお願いしますと頭を下げあって、さあ帰るかと鳥居をくぐった。
「ちょっと」
後ろから野太い声がした。
振り返ると、鳥居のむこうに社殿を背にしてもうひとり立っている。
最初に目にしたのは胸元に垂れた長い髪だ。背がずいぶん高い。
見上げると、髭面の口元が笑っていた。鼻から上は鳥居に隠れて見えない。大きすぎる。
はっと息を呑んだときにはもう男は消えて、朝日が差し込んでいた。

 


なんとなく、それからは三人とも無言で解散した。