2007-01-01から1年間の記事一覧

七十六/ 新雪 その二

Tさんは日本海に面した豪雪地帯の出身である。 朝、家の前の道を誰かが通ると夜の間に積もった雪を踏む「ぎゅっぎゅっ」という音がする。それを聞きながら目が覚めるのは、幼いころからの冬の定番とも言える出来事だった。雪かきは大変なものの、Tさんは雪…

七十五/ 天井の星

Uさんが旅行で、和歌山の山奥にある旅館に一泊した時のこと。 夜中にハッと目が覚めたそのとき、ここは外なのだろうか、と思った。仰向けに見上げた先は皓々ときらめく満天の星空なのだ。しかし、体はちゃんと布団の中にある。寝ぼけたか何かで外に出てしま…

七十四/ その後の暮らし

お祖母さんの葬儀が済んで少しして、Aさんが遺品を整理していると、使い込まれた大学ノートが押入れの中から二十冊近く出てきた。大事そうに仕舞ってあったので何だろうとぱらぱらめくってみると、日付と出来事が書いてある。日記だ。一番古い日付は約四十…

七十三/ 新雪 その一

その日、Kさんは友達のIさんと二人で学校を出た。 明け方から降っていた雪はだいぶ小降りになっていて、持っていた傘もほとんど必要ないくらいだった。人通りがあまりない道で、雪がずっと降っていたので二人の通ってきた後には二筋の足跡だけがきれいに付…

自分以外全部死体

というゲームを考えた。オンラインゲーム。 自分以外のプレイヤーがみんなゾンビに見える。NPCもみんなゾンビ。見分けは付かない。NPCのゾンビの一部はプレイヤーに襲い掛かってくる。 生き残る為には襲い掛かってくる奴だけ蹴散らせばいいんだけど、お金と…

坊主鬼(67/100)

合宿最終日の夜は、毎年恒例の怪談大会である。俺はこの時のためについさっき五分で考えた話を披露した。 「この寺には古い言い伝えがあってな。昔、近在で人を襲っていた悪鬼をこの寺の高僧が封じ込めたという。だがその鬼を封じたという大岩が、工事のため…

七十二/ 黒い素麺

Oさんの娘さんは幼い頃、なぜか部屋のコンセントを異常に怖がる子だった。プラグが差してあれば問題はないのだが、何も差していないコンセントがあると、近づくのをひどく嫌がる。なぜそんなに怖がるのか聞くと「黒いそうめんが出てくる」と言う。しかしO…

七十一/ 嫉妬

Nさんはある頃から、毎晩うなされるようになった。 仕事疲れのせいかと思ってそのまま過ごしていると、今度は夜中に部屋のあちこちを何か固いもので叩き回るような音がする。それも当初は十分程度で静まっていたが、日に日に長い間続くようになり、じきに一…

いきもの紀行携帯編

去年まで使っていた携帯電話の写真データを久しぶりに見てみたら、明らかに人間の写真が少ない。じゃあ何の写真が多いのかというと、動物とか風景の写真ばっかりでした。 そんなわけで私の前を通り過ぎていった動物たちの一部を紹介したい。そしてあわよくば…

海だるま

(これより前判読不能)、それ以来ここの海では妙なものが獲れるようになった。他所で獲れたという話も聞かないので、ここにしかいないのだろう。潜ってみると、浅瀬の岩の間にたくさん青黒いものが転がっていて、大きさはテニスボールくらいからバレーボー…

『てのひら怪談2 ビーケーワン怪談大賞傑作選』(加門七海/福澤徹三/東雅夫[編]、ポプラ社)

てのひら怪談〈2〉ビーケーワン怪談大賞傑作選作者: 加門七海,東雅夫,福澤徹三出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2007/12メディア: 単行本 クリック: 11回この商品を含むブログ (45件) を見る今夏開催された「第五回ビーケーワン怪談大賞」の応募作から百編…

七十/ 今日のひとこと

床に直接布団を敷いて寝るつもりだったEさんだったが、引っ越していくらも経たないうちにベッドを購入した。 新しいマンションに引っ越して一週間経った夜のことである。布団に入ってうとうとしていると、どこかからボソボソ話し声がする。隣室のテレビだろ…

六十九/ 火事のあと

Yさんが中学生の時の話というから、もう二十年近く前のことである。 近所で火事があり、家一軒が全焼した。それからというもの、その焼け跡には何か出るという噂が立った。Yさんはこの噂が本当かどうか確かめようということで、友人と夜中に焼け跡を訪ねた…

第二回ファック文芸部杯報告

こんな感じでした。バナナ祭りにも一編書いたけどそれは敢えて伏せておきます。 ニホンゴ惑星 (原題『Japanestar』) 御覧の通り『Japanestar』の翻案です。id:bachihebiは罰沢新一と蛇平四郎の合作名であることはプロフィールの通りですが、『Japanestar』は…

六十八/ ビンの蓋

アパート住まいのTさんの部屋には、ビンが一本もない。それというのも、ビンを置いておくと勝手に蓋が開いてしまうからである。原因はまったくもってわからない。ともかく、入居した当初にペットボトルやら一升瓶やらが片っ端から開いてしまって以来、どう…

六十七/ 錆びずの槍

Eさんの実家の裏庭に、一本の大きなクスノキが立っている。Eさんの家が建ったのは明治のことらしいが、その木はその遥か以前からそこにあるらしく、樹齢数百年と言われている。その木には古さのほかに、もう一つ特異な点があった。地上から約三メートル辺…

口ずさむメロディーが教えてくれるとか何とか

中学生の時に、あるクラスメートが言ったのさ。「ゲームの音楽のCDとか買うのってダサいっつーか」その発言自体は単なる中二病的な「ゲームとか卒業してポップスとか聴いちゃう俺マジ大人」っていう文脈から出てきたものだったので、当時も(背伸びしやがっ…

六十六/ 不動の書

市の図書館に勤めるAさんに聞いた話。 その図書館には、位置を変えることができない本があるという。ある時、書架のスペースの問題から、一部の古い本を閉架書庫に移すことになった。休館日に出勤して移動作業をしていると、いざ閉架書庫に運び込んでリスト…

六十五/ 猫との旅

Oさんが四歳のときの話。 昼下がり、ふとお母さんが庭で遊んでいるOさんを見ると、Oさんがお菓子の袋を持っていた。台所から持ち出したものだと思い、Oさんを呼んで取り上げると、お母さんが買った覚えのないお菓子だった。通りすがりの人に貰ったのだろ…

夜の歌

主にチャンピオンREDの付録などの女体フィギュアがいくつか溜まってきたのですが、どうすべきか思案しています。何か超面白カッコいい活用法はないものでしょうか。 今のところ最も有力な案は、富士鷹ジュビロ先生の短編「夜に散歩しないかね」の那引のおじ…

海鳴り (66/100)

船乗りだった彼女の夫が、海難事故で亡くなった。彼女は、葬儀が済んでもお骨を手元から離そうとはしなかった。部屋の一隅に設けた簡素な祭壇に、遺影と並べていつまでも骨壷を置いておく。納める墓地に困っているわけではないのに、いつまでも手元に置いて…

銀河仏道の夜

数日前objectO氏が「スペース歓喜仏」という素敵ワードを仰ったので大いに感じるところあり、宇宙仏についてあれこれ想い描いていたところ、脳内涼之介が「宇宙仏師とはいかなるものなのでしょうか」などと言います。アステロイドベルトで延々石仏を彫り続け…

六十四/ 手拭

Kさんが中学二年生の夏休みに、親戚の寺に遊びに行ったときの話。 夕方、外の回廊に面した座敷で一人で宿題をやっていた。森に囲まれているため、蝉の声が喧しかったが、宿題に集中するにつれそれも気にならなくなった。しばらくしてふと集中力が途切れた瞬…

六十三/ 砂場野菜

Uさんは幼い頃、野菜は砂の中に埋まっているものだとばかり思っていたという。というのも、Uさんが近所の公園の砂場で遊んでいると頻繁に砂の中から野菜が出てきたからである。キャベツ、人参、玉葱など種類を問わず、Uさんが掘った砂の中からごろごろ出…

ディレイラマを描いてみた

時代はラマです。剣鬼だってラマ仏ですよ。ジークフリートさんもチベットで修行してましたよ。 私が凡百の萌えボーカロイドよりディレイラマを好むこと山(カイラース)の如しですが、それにも拘らず先に初音某を描いてしまっておりました。五体投地。

六十二/ 子猫の声

Tさんが小学生の頃の話。 仲のいい友達と家の近くで遊んでいた時、どこからか子猫の鳴く声がした。弱々しい声で助けを呼んでいるように聞こえる。声のするほうに行ってみることにした。声はどうも道路の側溝の中から聞こえてくるようだった。見える範囲の側…

六十一/ 不測の欠勤

Fさんはその朝、いつものように車を運転して出勤した。 勤め先の地下にある駐車場に車を停め、車の鍵に手を伸ばした時「あれ? 」と思った。いつもと感触が違う。引き抜いてみると、やはり自分の車の鍵ではない。狼狽しながら視線を上げると、また驚いた。車…

タモリ二題

影武者タモリ 眼帯からサングラスへと変わる際の秘史 人気を妬んだほかの芸人が仕掛けた罠により死に瀕するタモリさん 死の床で付き人に語るタモリさん 「われ死して後、三年はそれを明かしてはならぬ」 「そして影武者を立てるのだ」タモリさんノリノリ 立…

六十/ ぬいぐるみ

宴会のため夜遅くなった帰り道、飲み物を買おうと道端の自動販売機の前で立ち止まり、どれにしようかと一通り見回して、Sさんはふと異物に気がついた。自販機の下部、取り出し口の蓋に猫のぬいぐるみが挟まっている。クレーンゲームの景品くらいの大きさだ…

五十九/ 渋滞

Eさんは車を運転中、運悪く渋滞に捕まってしまった。歩いた方が速いくらいのスピードでしばらく進んでゆくと、行く手にある交差点の少し手前、片側の車線をボンネットのひしゃげた自動車が塞いでしまっている。どうやら交通事故が渋滞の原因のようだった。…