2013-01-01から1年間の記事一覧

兄帰る

Hさんが高校生だった時のこと。 ある日帰宅すると、母から「今日、お兄ちゃん帰ってくるんだって」と聞かされた。 六つ年上の兄は就職して家を出ていたが、そうやって時々帰ってくる。 月に一、二回は顔を合わせているのでHさんも特別嬉しい訳ではなかったが…

謎メモ

小説のネタになりそうなアイデアを思いついた時や、面白い夢を見た時などは手近にある紙に一応メモしておく。後でそういうものを見返してみると、断片的過ぎてよくわからないものが混じっていたりする。多分書いた時には面白いと思っていたのだが、時間が経…

プリント

Hさんは中学生の頃、整理整頓が苦手だった。 学校の授業などで貰ったプリントなどはまとめてグシャッと鞄に押しこむのが常で、家に帰ってからも整理などしないまま机の抽斗かその辺にある箱に突っ込んでおくくらいだった。 ある日の夕方も自分の部屋に戻ると…

小学生から「『ファティマ第三の予言』ってなに?」という質問をされて耳を疑った。どこでそんなこと聞いたんですかと尋ねると「『SPEC』に出てきた」という。私は観てないのでどういう形で出てきたのか知りませんが、多分全国で『SPEC』を視聴していた何千…

七人

埼玉の中学校で、土曜日に男子バレー部の試合が行われていた。 市内の別の中学校のチームを招いての練習試合だったが、実力が伯仲しているためになかなか白熱した展開となっていた。 お互いに1セットずつ取った上での3セット目開始時のことだったという。 …

Fさんという女性が小学生の時のことである。 真夏の昼下がり、自分の部屋で昼寝をしていると、何だか右の手のひらがムズムズして目が覚めた。 寝ている間に握りしめていたらしい右手を開いてみると、なぜか一本の釘がある。 五センチほどの真新しい釘で、青…

吸い殻

マンションの5階に住むYさんが、いつものように夜遅く帰宅した。 エレベーターに乗ったのもYさんひとりで、5階までどこにも停まらなかった。 5階で開いたドアからまっすぐ歩き出したYさんだったが、何かいつもと違う感じがする。 その違和感が少し気にな…

金属バット

大学生のTさんの家に、母校の中学校から電話がかかってきた。 かけてきたのは三年生の時に担任だったFという先生で、彼は挨拶もそこそこにTさんにこう質問したという。 「T、今日はどこにいた?」 ずっと会っていなかった先生からいきなりそんなことを聞かれ…

釣り人

Hさんが友人二人と一緒に旅行をした。 温泉宿に泊まった三人は、昼間はしゃいだせいと夕食で飲んだビールのせいで、早々に床についた。 その夜Hさんは非常に寝苦しい思いを味わい、悪い夢を見て何度か目を覚ました。 更には枕が合わなかったためか、翌朝起き…

水槽の魚

Uさんは小学生の頃、学校から自宅ではなく祖父母の家に帰っていた。 両親が共働きだったので、両親が帰ってくるまでは祖父母に面倒をみてもらっていたのである。 祖父母は小さな雑貨屋を経営していた。 Uさんはその店の隅に水槽を置いて、近所の川で捕ってき…

実家の古い家が老朽化したので取り壊すことになった。私が高校生くらいまで暮らした家だ。取り壊しにあたって家の中にあるものを全て片付けなければならない、ということで今年の夏一杯はずっと片付けと掃除に追われていた。 そして95-97年くらいの少年サン…

ある土曜日の夕方のことだという。 学生のTさんがリビングで寛いでいると、社会人の姉が血相を変えて玄関に駆け込んできた。 力一杯ドアを閉め、慌てて鍵をかけるとその場にへたり込んで震えている。 驚いたTさんが顔を出すと、姉は彼女にしがみついて泣きだ…

文学フリマとかガッチャとか

先回の大阪のイベントに引き続き、また小説をひとつ書かせていただきました。第十七回文学フリマに参加するサークル「たびね町」発行の『十一月荘』第4号に載る予定でございます。 スペースは「F-24」とのことでございます。文学フリマWebカタログ サークル…

近所の橋の上に大きな魚が転がっていた。十日前くらいの話である。鳥が落としていったのだろうか、或いは車の荷台から落ちたのだろうか、とその時はそれくらいの可能性しか思い浮かばなかった。車の通りが多い道で、歩道はまた並行した別の橋があるから誰に…

蛍光灯

Hさんが学生の時の話だという。 遅くに帰宅して、自室で着替えようとしたところ、部屋の灯りが点かない。 ドアのすぐ脇にあるスイッチを何度もオンオフしてみるものの、部屋は暗いまま。 蛍光灯が切れたのかな?とうんざりしながら更に何度かスイッチを連打…

衣装ケース

十五年ほど前のことである。 ある会社で、従業員の女性がひとり、始業時間になっても現れない。仮にその女性をAさんとする。 電話をかけても誰も出ないので、仕方なくAさんの実家に連絡した。 早速Aさんの母親がAさんの暮らすアパートを訪ねてみたが、やはり…

お面

夜十時過ぎのことだという。 飲食店で働くTさんは仕事を終えて、店の裏に駐めてある車の所にやってきた。 鍵を開けようとしながら何気なく後部座席に目をやると、白っぽくて丸いものが見えた気がした。 運転席の真後ろあたりだ。 当初はちらりと視界をかすめ…

居酒屋

Hさんという主婦が、隣町の居酒屋まで夫を迎えに行ったときのこと。 店の出口が見える位置に車を駐めて夫が出てくるのを待っていた。 迎えを呼ぶ電話があってから家を出たので夫はすぐに出てくるはずだったが、Hさんはそのまま少し待たされた。 待っている間…

座るもの

Yさんが高校一年生のときのこと。 登校したYさんが教室に入って自分の席に座ると、友人が話しかけてきた。 「なあ、あいつ何組の奴だか知ってる?」 友人が示す方を見ると、窓際の前から三番目の席に男子がひとり座っている。 そこはFというクラスメイトの席…

ミシガン湖

Hさんが高校一年生の夏休みに、アメリカに住む叔父の家に遊びに行った時のこと。 知り合いからボートを貸してもらえるから釣りに行こう、と叔父から提案されて喜んで賛成した。 早朝、まだ暗いうちから出発して、車で三十分ほど走ってミシガン湖に到着した。…

ヌルヌル

二年ほど前から、Nさんの職場では「ヌルヌル」と呼ばれる悪戯について語られるようになった。 駐めておいた車のハンドルに、何かヌルヌルしたものを塗りつけられる悪戯だという。 ヌルヌルしているだけではなく、何か強烈な生臭さも車の中に残されているので…

ジャージの生徒

会社員のKさんは若い頃、高校の教師をしていたことがある。 数年で辞めてしまったので赴任した学校はひとつだけだったが、その高校には「出る」という噂があったらしい。 実際、Kさんが受け持ったクラスの生徒の中にも何人か奇妙な体験をしたという者がいた…

地震

Tさんが学生の時の話。 実家を離れてアパート住まいをしていた彼が、夕方に自室で寛いでいたその時、グラっと部屋全体が揺れた。 少し大きめの地震で、壁にぶら下げてあったカレンダーや、棚に飾ってあった模型なども小刻みに揺れている。 揺れ続ける部屋を…

塾 その2

同じ教室での話。 授業が終わり、講師もみな帰って、Nさんも軽く掃除機をかけてから帰ろうと思っていたところである生徒の保護者が一人やってきた。 今後の授業方針のことや子供の進路のことで少し話したいというので、遅い時刻ではあるがNさんも相談に応じ…

塾 その1

学習塾を経営する会社に勤めるNさんは、ある時茨城の教室に転勤になった。 その直前に新しい物件に移転したばかりの教室で、内装も真新しく、Nさんもすぐに気に入った。 しかし数日経ってから、どうもおかしいと思うようになった。 午前中に出勤して教室の鍵…

サボテン

Yさんの大学の同期の友人にNという男性がいた。 端正な顔立ちと育ちの良さからとても女性に好かれる人物で、浮いた話も多く、常に恋愛関係で何らかのトラブルを抱え込んでいたという。 同性の友人としても気さくで話のわかる男だったので、Yさんも彼とはそれ…

金色

Oさんという人がある日、通勤のためにバスに乗ると車内が異様な状態だった。 Oさん以外の乗客の顔が、みな金色をしているのである。 混み具合はいつもと同じくらいなものの、なぜかどの顔も金粉を塗ったように金色に光沢を帯びている。 学生だろうとスーツを…

バルス

日本中で同時に滅びの呪文をつぶやく人数が増え続け、架空のものだったはずの呪文はやがて言霊を宿し、遂に真実の滅びの力を持つに至る。 近い未来の「ラピュタ」放映時、一斉につぶやかれた滅びの呪文は千代田の聖なる森の奥深くに存在する飛行石、またの名…

サイレン

Uさんという主婦が幼い息子を連れて近所の公園へと出かけた。 よく晴れた秋口の昼下がりのことだったという。 いつもなら平日にも小さな子を連れた母親が何人かいるのが普通だったが、その時は珍しく他にほとんど人気がなかった。 他の主婦とも話をしたい気…

ラジオ

中学生のOさんが同級生数人と一緒に夏祭りを見に出かけた。 出店を回り、祭囃子を聞きながら飲み食いして大いに楽しんだので、そのまま帰るのも何だか勿体ないような気分だった。 誰かが「肝試しに行かない?」と言い出したので、Oさんたちはそのままの勢い…