吸い殻

マンションの5階に住むYさんが、いつものように夜遅く帰宅した。
エレベーターに乗ったのもYさんひとりで、5階までどこにも停まらなかった。
5階で開いたドアからまっすぐ歩き出したYさんだったが、何かいつもと違う感じがする。
その違和感が少し気になって振り向くと、いつもはすぐに閉まるはずのエレベーターのドアがまだ開いている。
設定が変わったのかな?と思ったところで、エレベーターの中の死角になっているあたりから、ふーっと横に煙が吹き出した。
誰かが煙草の煙を吐いている。
そしてエレベーターの外に吸い殻がポイっと投げ出され、直後にドアが閉まった。
――煙草のポイ捨てをするなんて!しかもマンションの中で!なんて奴だ!
カッとなったYさんだったが、すぐにおかしな点に気がついた。
エレベーターに乗っていたのは自分一人だけだった。降りてからも誰ともすれ違っていない。
今のは一体誰だったんだ?
変なものを見たな、と思いながら吸い殻を拾い上げると、そこには真っ赤な口紅がべったり付いていたという。