2013-01-01から1年間の記事一覧

二つの月

中学生のA君のお父さんは、狸に化かされたことがあるのだという。 お父さんが若い頃の話で、夕方に友人と歩いていると近くの木の上に月が出ている。 しかし、そちら側は北側なので月など出るはずがない。 反対側を見ると、南の空には本物らしき月がちゃんと…

冷凍庫

Uさんが一人暮らしをしている友人のところへ遊びに行った。 楽しく酒を酌み交わしているうちに終電を逃してしまったので、そのまま泊めてもらうことになった。 すると寝る前に「そういえば」と友人が言う。 「夜中に起きても、冷凍庫は明けないでくれ。冷蔵…

マンホールの中

高校生のNさんが下校中、どこかから叫び声が聞こえてきた。 只事ではなさそうなので声のした方に駆けつけると、すぐ近くの路地でランドセルを背負った小学生が倒れている。 慌てて近寄ったところ、その男の子は泣きながら言う。 「手が、手が」 よく見てみる…

覗く客

Yさんは大学生になってすぐに市内のコンビニエンスストアでアルバイトを始めた。 特にトラブルなどは起こらなかったが、ひとつだけ気になることがあったという。 夜勤をしていると、時々奇妙な行動をする客が来るのである。 特定の人というわけではなく、年…

『メタルマックス4』発売決定の報。シリーズ存続が何よりもめでたい。 艦これ。始めてからひと月が経過。いつのまにか大将になっていたので赤犬を名乗ろう。 始めて一週間くらいの頃に建造と出撃のしすぎにより物資が払底しかけて反省したので、それ以来は…

テレビのない家

Tさんは小学校を卒業する頃まで、家でテレビを観た記憶がなかった。 それまでずっと家にはテレビがなかったのだ。 情報源は新聞とラジオだけだったが、それで特に不自由も感じなかった。 ずっとそんな環境で育ったので、Tさんはテレビはかなり貴重なものだと…

スマブラに「むらびと」が参戦すると聞いて「『いっき』参戦だと!?」といきり立ったものの、落ち着いて考えてみたら『いっき』の主人公は「ごんべ」だったので平静を取り戻したid:bachihebiです。こんばんは。 むらびとってどうぶつの森のキャラなんだ、ふ…

背中の下

学生のFさんが自室でレポートを書き上げた。 炬燵に足を突っ込んで胡座をかいた姿勢でずっと書き物をしていたので、もう背中も足も限界だった。 ひと仕事終えた開放感もあって、足を伸ばしながら大きく伸びをして、そのまま後ろに倒れ込んだ。 その瞬間。 「…

仏間の窓

Mさんが学生の頃、大学の夏休みに帰省したときのことだという。 特に予定もなかったので、彼女は毎日のようにゴロゴロして過ごした。 お気に入りの昼寝場所が仏間で、襖を開けて畳に寝転がればそれなりに涼しく感じられるのである。 仏間の欄間にはMさんの祖…

ゲームなど

私としては当然の行為として『真・女神転生IV」を進行中です。寝る前にちょっとずつ進めているのでまだレベル14ですが。ちなみに発売までは『ストレンジジャーニー』と『デビルサバイバー』を交互にプレイするという美しい作業をしていました。時々メタルマ…

引き波

利根川の下流にある町でのこと。 Aさんが趣味の川釣りに出かけた。 向かったのは市内にある見通しの良い河川敷なのだが、あまり他に釣り客がいないポイントで、Aさんのお気に入りの場所だった。 昼過ぎくらいから天気が崩れてきて、程なく小雨が降ってきた。…

ウサギ

大学生のHさんが夏休みに帰省した時のこと。 中学校の同級生と連絡を取ったところ、一緒に飲みに行くことになった。 久しぶりに会ったので話に花が咲き、会計を済ませて居酒屋を出た時には夜の十時になっていた。 そのまま帰るには名残惜しかったので、遠回…

セメント

日曜大工が趣味のUさんが、自宅の車庫の前にセメントを敷いた。 三畳ほどの広さに木で枠を作り、水で溶いたセメントを流す。 素人仕事なので時間は掛かったが、本人としてはなかなか満足の行く出来になった。 表面をうまく平らに均せたので、あとは固まるの…

天井の男

Yさんがひとり暮らしをしていた時の話。 ある晩、酷く疲れて早めに布団に入ったYさんだったが、あまりの寝苦しさから夜中に眼を覚ました。 体がガタガタ震えるので熱を計ってみると38℃を超えている。 薬を飲んで再び布団に潜り込んだものの、悪寒のために寝…

埋葬

Yさんが高校生の時の話だという。 学校から帰ったYさんが部屋にいると、しばらくして帰ってきた父親が彼を呼んだ。 帰ってくる途中でタヌキが死んでいるのを見つけたから片付けるのを手伝え、と父親は言う。 渋々Yさんが父親に同行すると、家から歩いて十分…

木々

学生のEさんが連休を利用して、友人たちと一緒に旅行をした。 レンタカーを利用して栃木の温泉地に出かけ、二泊して帰ってきた。 観光地は大して回らなかったが、のんびり過ごして随分と日頃の疲れが取れたという。 帰って数日してからEさんは旅行中に撮った…

ススキ野原

中学生の時にかなりぐれていたというHさんは、頻繁に授業をサボって友人と過ごしていた。 溜まり場にしていたのが学校から少し離れたところにある倉庫の裏手の空き地だった。 ここは金網に囲まれた上に雑草が伸び放題で見通しが悪く、天気が良ければ隠れて時…

奥ノ郷鎮守社縁起(前半)

飛騨の、飢えた獣の脊椎のごとき急峻な山嶺を幾つも重ねたその向こう、水晶・鷲羽を西に見上げるあたりに、人呼んで奥、あるいは奥ノ郷なる集落が存在する。現在では自治体として独立しておらず行政区分上は山ふたつ隔てた町の一部として吸収されているが、…

宣伝

先週も書きましたが文学フリマの告知でございます。 2013年4月14日(日)第十六回文学フリマin大阪にて頒布の同人誌『十一月荘』第3号に寄稿しました。 スペースは「D-25 たびね町」だそうです。 拙作の題名は「奥ノ郷鎮守社縁起」でございます。試し読みと…

会釈

Kさんが毎日高校まで通っていた道の途中に小さな畑がある。 彼がそこを通りかかると、時々畑と道路の境目にあるガードレールに若い女の人が腰掛けていることがあった。 初めの頃は特にKさんも反応していなかったのだが、時々視線が合うことがあって、いつし…

近所の猫が発情期を迎えた。毎年のことながら喧しい。 なぜいつも私の家に猫が来るのだろうと思っていたら、どうやら庭に生えているキウイの蔓が目当てらしい。キウイはマタタビの仲間なので猫が好むという。確かにキウイの生えている付近でよく猫が屯してい…

二階の窓

Hさんが中学生の頃まで、母方の祖母が隣町に一人で住んでいた。 祖母に懐いていたHさんは時々自転車で祖母に会いに行き、学校であったことや面白かったことなどを話していたり、庭の草抜きをしたりしていた。 ある日、祖母の家に行った時のこと。 家の前で自…

Yさんの通っていた大学には、構内を猫がよく歩いていた。 学生が野良猫に餌を与えるものだから、それを目当てにした野良猫が何頭も住み着いていたのだ。 Yさん自身は餌をやったことは一度もなかったが、餌をやるやらないにかかわらず、どの猫も人懐っこかっ…

バレーボール

Tさんは高校生の時にバレー部に所属していた。 高校の体育館は天井付近の鉄骨がむき出しになっていて、時々高く上がったボールが鉄骨の隙間に挟まってしまうことがあった。 バレー部の顧問の先生が厳しい人で、そういうボールをそのままにしておくと激しく怒…

覗き癖

Fさんは中学二年生のとき、何気なく応募した懸賞に当選し、なかなか立派な望遠鏡を手に入れた。 とは言っても星に興味があった訳でもなく、そもそも望遠鏡は目当ての景品ではなかったので、二、三度使っただけですぐに飽きてしまった。 それからしばらく望遠…

居間 その二

そんなことがあってからまた少し後、日曜日に家族で出かける用事があった。 夕食も外で済ませ、暗くなってから帰宅すると居間にぼんやりと明かりが見える。 テレビが点いているのだ。 出かけるときに消してなかったのか、と父親が言ったが、Hさんは以前の体…

居間 その一

Hさんが小学四年生の時のことだったという。 両親が共働きだったHさんは、学校から帰るとまた中から玄関の鍵をかけて親の帰りを待つのが毎日のことだった。 その日も帰宅してから二階の自室で宿題をしていたところ、玄関が開く音が聞こえた。 鍵を持っている…

踏切ビデオ

Hさんは高校生の時に映画研究部に所属していた。 映研には何本ものビデオテープが代々受け継がれていたのだが、その中になるべく見ないようにすべしと言われている一本があった。 なぜ見ないほうがいいかというと、明らかにおかしいものが映ってしまっている…

あぜ道

Tさんの日課はランニングで、毎日夜の入浴前に近所を一回りして汗をかくことにしていた。 ある日、仕事が長引いて帰宅するのが遅れ、走り始めるのもいつもより遅い時刻になった。 しかし走らないことには決まりが悪いので、少しコースを変更して道のりを短く…

全校集会

茨城にある中学校でのことだという。 ある時、体育館で全校集会が開かれ、ほとんどの教師と全校生徒が集まった。 集会といっても大した内容ではなく、いくつか部活動関係の賞状授与があり、その後は校長先生が話をして終わる予定だった。 その校長先生の話の…