2017-01-01から1年間の記事一覧

葉書

Nさんは通信販売で注文した品物が郵便で届くというので、その日は午前中から郵便受けを気にしていた。 昼過ぎに配達に来たのが窓越しに見えたので、玄関から出て行って直接受け取った。 通販の品物以外に一通の葉書が届いたが、差出人を見ると見覚えのない名…

かぶさるもの

Nさんが二年前まで住んでいたマンションでの話。 六階建ての三階にNさんの部屋があり、毎日Nさんはエレベーターで昇り降りしていた。 ある深夜、仕事から帰宅したNさんはいつも通り一階でエレベーターを呼び出した。 階数表示が下りてきてすぐに目の前で扉が…

壁紙の女

大学生のEさんの話。 女子寮住まいのEさんが夕方に自室で過ごしていると、ウェアアアーッ! という凄まじい悲鳴が隣の部屋から響いてきた。 安普請だから少し大きい声を出しただけで壁越しに聞こえてしまうものの、今まで聞いたことのないようなひどい金切り…

霧の朝

高校のボート部での話。 六月のある朝、部員たちはいつものように朝練に励んでいた。 その地域ではその季節になると朝方に霧が出ることがあり、その日も川岸の練習場には濃い霧が立ち込めていて、三百メートルほど先の対岸も見えなかったという。 練習してい…

秘密の品

Nさんには小学生の頃に行きつけのおもちゃ屋さんがあった。 愛想のいいおばあさんと無愛想なおじいさんが二人でやっている小さな店で、Nさんの家から自転車で十五分くらいのところにあった。 薄暗い店内には所狭しと様々なおもちゃが陳列されており、かすれ…

えらいねえ

ある夜、自宅のベッドで寝ていたKさんはふと目を覚ました。 寒い。手足がすっかり冷え切ってしまっている。 しかし布団は首まで掛かっているし、顔で感じる部屋の空気も別に冷たくない。 なんでこんなに冷えてるんだろう……。 体を縮こまらせようとしたKさん…

痴話喧嘩

Nさんが当時付き合っていた男性の家に行き、一緒に夕食を食べ、それから些細なことで口論になった。 売り言葉に買い言葉というやつで、お互いに引っ込みが付かなくなって三十分ほど言い合いを続けた。 Nさんも頭に血が昇ってしまっている自覚があり、これは…

高架下

Wさんは大学生のころ、大学と同じ市内に下宿していた。下宿から大学までの道は途中でJRの高架と交差していた。 この線路は単線なので下をくぐるのもごく僅かな距離だけだったが、高架下には鬱蒼と草が生い茂っていつも薄暗く、あまり気分のいい場所ではなか…

見学

N君は高校入学後、バレー部に見学に行った。中学校でもバレー部に入っていたので、高校でも続けたいと思っていた。 バレー部が練習している体育館では壁際にパイプ椅子が十ほど並べられていて、希望者はそこに座って練習を見学するようになっていた。N君が行…

泥穴

初夏の日曜日、Sさん夫妻は庭の草刈りに追われていた。 共働きなので平日に庭の手入れをする余裕などなく、梅雨が開けてますます伸びるのが早くなった雑草は土日にまとめて刈り取ってしまわないと家の周りが草で埋め尽くされてしまう。 夫妻には小学一年生の…

井戸と石

Wさんは両親が共働きだったので、小中学生の頃は学校から自宅ではなく祖父母の家に行き、母か父が迎えに来るまでそこで過ごしていた。 祖父母の家ではまず宿題を済ませると夕食まで暇なので、裏庭で遊ぶのがいつものことだった。 裏庭の隅には井戸があったが…

友達の祖父母

高校生のE君が友達の家に遊びに行った。 しばらく友達の部屋で過ごしていたが、そのうちトイレに行きたくなった。 友達の家は古い農家で、庭も家も大きい。教えられた通りに長い廊下を辿っていくと、途中に仏間があった。 ふとその中に視線を向けると、座敷…

墓参り

Nさんのところに息子夫婦が八歳になる孫を連れて訪ねてきた。 たまにしか来ないので墓参りにも行っておこうと、Nさん宅から徒歩十分ほどのところにある墓地に皆で歩いていった。 花と線香を上げてさあ帰ろうとすると、たった今までいたはずの孫の姿が見えな…

妹の友達

Yさんが大学生の時の話。 休日に家で過ごしていると、Yさんの当時高校生の妹が友達を連れてきた。 文化祭の出し物の打ち合わせをするということで、女の子ばかり四人が妹の後に付いて玄関から上がってきた。 リビングにいたYさんは会釈したが、妹が連れてき…

豪雨

高校の野球部が練習をしていたところ、午後二時を過ぎたあたりで急に空が暗くなり、やがて大粒の雨が落ちてきた。 グラウンドに砂埃が立つほどの強い雨で、とても練習を続けられる様子ではない。部員一同、慌ててグラウンドの隅の用具置き場の中へと退避した…

遅刻

高校生のF君が寝坊して電車に大幅に乗り遅れ、学校に遅刻した。 学校に着いたときには既に二時限目が始まる直前になっていた。 授業が始まってしまってから教室に入るのは恥ずかしい。 授業開始時刻の数秒前に教室へと駆け込むと、後を追うようにチャイムが…

追手

家族で山梨の温泉に行った人の話。 帰り道の途中で、長いトンネルに入った。交通情報でもよく名前を聞くような有名な所だ。 トンネルの中で、助手席の妻が少し身を乗り出すようにして言った。 なんか、壁から出てる。ほら。 そう言われて気付いたが、前を走…

眠い

印刷会社に勤めるKさんは当時、仕事が酷く忙しかった。 年末の繁忙期なことに加え、たまたま二人ほど急に社員が辞めてしまって人手が不足していた。 毎日が残業、休日出勤も当たり前で、Kさんは家に帰って倒れ込むように眠り、翌朝目を覚ますと入浴と食事を…

諏訪様

Nさんの住む街に諏訪神社があり、諏訪様と呼ばれて地域住民に親しまれている。 諏訪様の社殿は台地の縁に建っていて、参道は三百段以上ある長い階段になっている。 階段の左右は森になっていてそこを上がりきった境内も森に囲まれているから、昼でも薄暗いし…

川の中

釣りが趣味のNさんは、夏休みに遊びに来た甥を連れて隣町の河原に出かけた。 甥と並んで釣り糸を垂らしていたが、小学一年生の甥はすぐに飽きてその辺の石や草を投げたりちぎったりして遊び始めた。 一緒に行くと言うから連れてきてやったのに……釣りはまだこ…

跳び箱

中学校の跳び箱の授業中のこと。 一人ずつ順番に跳んでいって、ある女子生徒の順番が回ってきた。 その女子も助走して踏み切ったが、跳び箱の上に手をついた次の瞬間、ふっと姿が見えなくなった。 その瞬間は他の生徒の多くや先生も見ていたが、とにかく急に…

帰ってくる妹

夕方、高校生のMさんが学校から帰宅すると、まだ家族は他に誰も帰ってきていなかった。 夕飯までに宿題を進めておくか、とリビングのテーブルにノートを広げると、それから程なくして玄関が開く音が聞こえてきた。 「ただいまー」 廊下からリビングに入って…

前のタクシー

宅配業者で働いていた人の話。 夜九時頃、その日の配送を終えて営業所に戻る途中のこと。 いつもは車が多い国道を通ったが、その時は不思議に他の車が一台も走っていない。 珍しいなあと思いながら走っていると、やがて横道から一台の車が前に出てきた。 赤…

脚越し

主婦のKさんが自転車で買い物に出かけた。 ちょうど近くの高校が下校時刻だったようで、道の前方を高校生の女の子が四人ほど横並びで歩いている。 邪魔だなあ、あれじゃあ追い越せないじゃない、などと思いながらペダルを漕いでいると、高校生たちの足元で何…

坊主頭

夕方のこと。 Tさんが彼氏と並んで歩いていると、彼が突然何かにつまずいたように転んだ。 一体何に足を取られたのかと下を見ると、半球状の黒いものが路面にある。バレーボールくらいの大きさだ。 見通しの良い歩道なのに、つまずくまでこんなものには気が…

飛び下り

Nさんが大学の友達二人とドライブに出かけ、Nさんの実家のある町までやってきた。 せっかくだから案内して、と頼まれたのでNさんは何ヶ所か町の名所を案内したが、そうしているうちにNさんが卒業した高校の近くにさしかかった。 へえ、あれがNの高校か。 走…

祭囃子

大学生のFさんがアパートの自室で課題のレポートを書いていた。 ヘッドフォンで音楽を聴きながら作業していたのだが、ふと気づくとどこからか祭囃子らしき音が聞こえる。 初めはそれほど気にせずレポートの方に集中していたのだが、だんだん聴いているポップ…

リボン

Kさんが独身の頃の話。 夜九時頃に帰宅してリビングの明かりを点けたところ、なぜか上のほうが華やかに感じられた。 ふと視線を上げると、蝶結びされたピンクのリボンが無数に天井を飾っている。 Kさんにそんな趣味はないし、天井を飾り付けた覚えもない。 …

資材売り場

部屋に棚を作るため、ホームセンターに買い出しに行った時の話。 日曜日の店は親子連れも多く、小学生くらいの子供が我が物顔に店内を走り回っていた。 どうしてこういうの親は放っておくんだろう、危ないじゃないか。 そう思いながら板や金具といった材料を…

臙脂色のワンピース

パン屋で働くHさんの話。 午前九時頃、朝の配達を終えて店に戻る途中で、Hさんは歩道に友人の姿を見つけた。 高校の同級生で、お互いに地元で就職したこともあって頻繁に会う友人だ。 平日の朝だが友人は私服で、しかも連れがいた。裾の短い臙脂色のワンピー…