葉書

Nさんは通信販売で注文した品物が郵便で届くというので、その日は午前中から郵便受けを気にしていた。
昼過ぎに配達に来たのが窓越しに見えたので、玄関から出て行って直接受け取った。
通販の品物以外に一通の葉書が届いたが、差出人を見ると見覚えのない名前だ。
何の手紙だろう? と文面を見るとどうやらそれは礼状で、贈り物に対する礼が丁寧に述べられていた。
しかし相手は知らない人だ。贈り物をした覚えなどもちろんない。
何か間違えてるんじゃないか、と思い宛先をよく見ると、名前だけはNさんと同じだが住所が全く違う。隣の県の知らない地名だ。
郵便番号も上三桁からして違っている。……なんだ、誤配じゃないの。
同姓同名の別人宛の葉書がNさんのところに届いたのだろう。
しかし、郵便局では郵便番号でまず仕分けしているはずだ。同姓同名とはいえ、全く別の郵便番号の住所に配達されるなんてことが起きるものだろうか?
疑問はあったものの、Nさんは誤配であることを郵便局に伝えて届け直してもらおうと考えた。
もう先程の配達人は行ってしまったので郵便局に電話しようとしたところで、手にした葉書に何気なく視線を戻したNさんは違和感を覚えた。
葉書の縁に企業ロゴが印刷されている、家電量販店のダイレクトメールだ。宛名の名前も住所もNさんのものである。
何でこんなものを持っているんだろう。さっきの葉書は?
しかし郵便配達が来て葉書を受け取ってから、電話を手にするまでNさんは葉書を一度も手から離さなかった。
ほんの数秒目を離した隙に、なぜか手に持った葉書が別物に変わっている。あの礼状はどこに行った?
それとも、初めからそんなものはなかったのか?
いや、確かについ先程葉書の裏表を確かめたはずだ。見間違えなどはありえない。
しかし現に今持っているのは自分宛のダイレクトメールで……。
混乱しながらもNさんは家の中を探し回ったが、どこにもあの誤配された葉書は見当たらない。
もう一度ダイレクトメールをよく確かめてみたものの、どこにもおかしなところはない。どうして葉書がすり替わってしまったのか、さっぱりわからなかった。