大学生のEさんの話。
女子寮住まいのEさんが夕方に自室で過ごしていると、ウェアアアーッ! という凄まじい悲鳴が隣の部屋から響いてきた。
安普請だから少し大きい声を出しただけで壁越しに聞こえてしまうものの、今まで聞いたことのないようなひどい金切り声だ。ゴキブリが部屋にいたなどという生易しい様子ではない。
思わず跳ね起きたEさんは、様子を見に部屋を出た。
すると直後に隣の部屋からも誰かが出てきて、目が合った。
二十代後半くらいの女性で、ウェーブの掛かった髪が肩のあたりまで伸びている。
気さくににっこりと笑って会釈されたので、Eさんも咄嗟に頭を下げた。
女性はそのまま歩き去ったが、Eさんは先程の悲鳴が気になってすぐに隣の部屋に入ろうとした。
するとドアが施錠されている。
何かあったの? 開けて! と声をかけると、数分してから錠を回す音が響き、ドアが細く開いた。
隣の部屋に住むNという女の子は酷く怯えた様子でドアの外を窺っていたが、ようやく安心したように溜息をつくと、ぽろぽろ涙を落とし始めた。
Eさんはとりあえず部屋に入れてもらい、Nが落ち着くまで待ちながら部屋の様子を確かめた。
特に荒らされた様子はないし、N本人も怪我をしている感じではない。
しばらくしてようやく話ができるようになってきたNが語ったのは、こういうことだった。
つい今しがた、Nは床に寝転びながらスマートフォンをいじっていた。
友達とLINEでトークしていたのが一段落し、アプリを閉じたところでふとおかしなものが目に入った。
ホーム画面が違う。いつの間にかホーム画面の壁紙が見知らぬ写真に変わっていた。
知らない女が笑顔で写っている自撮り写真で、その女にも写真にも全く見覚えがない。
まさかウイルスに感染した!? と背筋に冷たいものを感じたNだったが、セキュリティソフトは入れているしウイルスを拾った心当たりもない。
何なのこの写真、と独り言を漏らしたところですっと誰かが側に立った気配がした。
「びっくりした?」
そう話しかけてきた誰かを見上げると、スマートフォンの壁紙に写っていたあの女がそこにいた。
えっ!? と画面に目を戻すと、壁紙はNが元々設定していたものに戻っている。
また女に目をやると、写真と同じ顔でにっこり笑った。
Eさんが聞いた悲鳴はこの時上げたものらしい。
女はそのまま部屋を出ていった、とNは怯えた目でいう。
――じゃあさっき部屋の前で会ったのがその女? とEさんはドアを見たが、そこで奇妙なことに気がついた。
女はEさんよりも一瞬遅れて部屋を出てきたように見えたが、ドアを開け閉めする様子は見なかったし、そもそもドアは施錠されていた。
あの女はどうやって部屋から出てきたのだろうか。
Nはその後半月ほどで寮から出ていってしまったという。