2020-01-01から1年間の記事一覧

面談予定

学習塾で働いていた人の話。その塾は県内に七つほど同じ系列の教室があり、当時その一つで教室長を務めていた。教室長は他の講師同様に授業も行うこともあるが、それより授業の管理や保護者との連絡、他教室長との会議、新規入塾の案内や手続きといった仕事…

裾引き

Gさんの実家は香川の海辺にあり、家から徒歩五分のところにある堤防で幼い頃からよく釣りをした。好きだから釣るというよりは、習慣のようにほとんど毎日堤防に行って釣り糸を垂らす。高校受験の前日にも釣っているところを学校の先生に見られて呆れられたこ…

いい感じ

東京で働くRさんが葬儀のため新潟に帰郷した。亡くなったのは一つ年下の従妹で、まだ三十歳になったばかりだった。幼い頃から姉妹のように一緒に育てられ、高校まで同じ学校に通った。家族のような親友のような、お互い何でも言い合える関係だった。ところが…

映る美容師

Wさんが行きつけの美容室に髪を切りに行った。この店は入ってすぐの待合スペースに熱帯魚の入った水槽が置かれていて、髪を切っているときにも鏡越しにそれが見える。Wさんは別段魚が好きというわけでもないのだが、散髪中は鏡に映るこの水槽を何となく眺め…

タイムカプセル

Mさんが友人からこんな話を聞かされた。友人は成人式で里帰りしたとき、かつて通った小学校を訪れた。六年生のときにクラス一同で埋めたタイムカプセルを掘り出すために、当時の同級生たちが集まったのだ。目印が残っていたおかげでタイムカプセルはすぐに掘…

同席者

Fさんが居酒屋でアルバイトしていたとき、お客さんからこういう話を聞いた。この前来た時に同じテーブルを囲んでいた人が誰だったのかわからない、と。友人同士で店に来て、気がついたら席に一人加わっている。親しげに話しているし、相手の知り合いなんだろ…

同席者

Fさんが居酒屋でアルバイトしていたとき、お客さんからこういう話を聞いた。この前来た時に同じテーブルを囲んでいた人が誰だったのかわからない、と。友人同士で店に来て、気がついたら席に一人加わっている。親しげに話しているし、相手の知り合いなんだろ…

鳩の窓

うちの会社に鳩の出る窓っていうのがあってな。Uさんは久々に会った大学時代の友人からそんな話を聞かされた。友人は輸入食品を扱う会社に勤めているのだが、その事務所の窓のひとつに鳩が首を出すのだという。事務所にやってきたお客さんが時折、その窓の方…

寝言

高校のバレー部が合宿した夜のこと。六人ひと部屋で寝ていると、一人が何かブツブツ言い始めた。隣で寝ていた二人はうるさくて目を覚まし、静かにしろ、寝れんだろと文句を言った。だが彼は一向に構わない様子でむにゃむにゃと言葉にならないような声を発し…

朝の挨拶

コーヒー店で働いていたKさんの話。午前八時頃に歩いて出勤する途中、前方の道端におばあさんが腰掛けていた。ああ、あれは知っている人だ。おはようございますと声をかけようとしたところで、後ろから肩を叩かれた。誰かと思えば同僚のMさんだ。Mさんはおは…

小さな男たち

Eさんは就職してから五年間、八王子のアパートに住んでいた。時折このアパートに小人が現れたという。 初めてそれを見たときはこうだった。日曜日の午後、Eさんは自室でテレビを見ながら横になっているうちに眠くなってきた。このままひと眠りしようかと思っ…

スポーツ実況

Mさんが高校三年、受験シーズン真盛りの頃のこと。深夜まで根を詰めて勉強していたら小腹が空いてきた。台所を覗くが摘めそうなものがない。気分転換も兼ねて、最寄りのコンビニまで歩くことにした。家からコンビニまでは一本道で、歩いて片道十分もかからな…

ゴムボール

高校の文化祭でのこと。部室棟でカレーの模擬店の受付をしていたMさん、その目の前に犬が一匹やってきた。野良犬だろうかと思ったが、首輪をしていたので繋がれていない飼い犬のようだ。食べ物を扱っているのであまり近寄ってこられるのも困る。警戒しながら…

雨上がり

Nさんの勤めるデザイン事務所はビルの二階にあり、隣接する民家の瓦屋根が窓のすぐ外に見える。雨が降ったり止んだりすると、この瓦屋根が濡れて黒くなったりそれが乾いたりするのでわかりやすい。だからNさんは仕事中に雨かな、と思ったらすぐ窓越しにこの…

埼玉に住むTさんが郷里の福島に帰ったときのこと。久々に会った友人の家で一緒に酒を飲み、そのまま泊まることになって一階の仏間に布団を敷いてもらった。真夜中に尿意を覚えて目が覚めた。暗い中トイレに行き、用を足して出てきたところでおや? と気がつ…

告白

Nさんは友人の友人として紹介されたKさんという女性と意気投合して、何度か二人で遊びに行った。会うたびに相手のことが気に入ったので、恋人として付き合ってほしいと伝えることにした。それでまたKさんを誘い、車で海まで出かけた。浜に着いたときはちょう…

雨の中を車で帰ってきたら道の中央に二本足の小さな何かが立っており、怪訝に思いながらスピードを緩めた。 数メートルの距離まで接近しても動こうとしない。 河童かと思ったがその直後に飛び去ったのでゴイサギの幼鳥か天狗であろう。

後遺症

Rさんは幼い頃、公園の遊具から落ちて大怪我をした。祖父母に連れられて行った公園で遊んでいるときに起きた事故だったようだが、Rさん自身にはそのときの記憶はない。聞いた話では三歳のときのことらしい。ジャングルジムから落ちたRさんは頭を打ち、一時は…

釣り上げ

Kさんは幼い頃から何度も「上に釣り上げられる」体験をしているという。ふとした時に身体がすっと上に浮く感覚がある。実際に身体が浮くわけではなくて、感覚だけが上に引っ張られる。足が地面を踏んでいる感触が不意になくなり、視線を下げると自分の頭頂部…

海異

Fさんが若い頃、友人二人と一緒にドライブしたときのこと。鹿島港から北へと海沿いの道を進んでいたところ、運転していた友人が突然車を道端に停め、何も言わずに車から飛び出していった。なんだあいつ、トイレか?もうひとりの友人とFさんは顔を見合わせた…

山の録音

十年ほど前、登山が趣味のNさんは夏休みに長野の燕岳に登った。三泊四日の日程で北アルプスの自然を堪能し、帰ってきてから数日後にスマートフォンの録音を聞き返した。山を歩いている間、休憩するたびに途中で見たものや歩いた感想などを記録として声で吹き…

犬の散歩

Jさんが妻と一緒に近所のコンビニに行った帰り道のこと。向こうから腰の曲がったおじいさんがうつむきがちに歩いてくるのが見えた。その足元を白い中型犬がせわしなく動き回っている。散歩中なのだろうが、犬をつないでいる様子はない。引き綱なしでも勝手に…

檻ラジオ

Oさんが中学生の頃、両親と一緒に祖父の家を訪ねた。到着してから持ってきた果物を食べながら久々に会った祖父と歓談したが、やがてOさんは退屈してきた。そこで両親と祖父を残して外に出た。祖父の家はOさんの暮らす家と違って山の中にある。家の周りを歩く…

月明かり

Rさんが夜中に尿意を覚えて目を覚ました。二階の部屋から一階のトイレに向かったが、廊下でふと足を止めた。目の前が不自然に暗いのだ。住み慣れた我が家のことなのでトイレに行くくらいなら明かりを点けずに済む。このときも廊下の明かりは点けていなかった…

山の穴

Fさんの通っていた小学校には毎年秋に歩行会というイベントがあった。学校から目的地まで徒歩で向かい、目的地で弁当を食べてまた帰ってくるというだけの行事だが、遠足のようなものなので児童たちはみんな喜んで参加していた。行き先は学年ごとに違うのだが…

灰色の雫

Tさんは付き合っていた女性から、引越しを勧められた。あの部屋何かあるかも、と言う。詳しく話を聞くと、こんな事があったという。Tさんは彼女にアパートの部屋の合鍵を渡していたので、彼女は時々Tさんの部屋に上がって食事の支度や掃除をしてくれていた。…

チンドン屋

Nさんの家に、母の妹である叔母さんが泊まりに来た夜のこと。両親と叔母さんはリビングでビールを飲みながら話していて、Nさんと弟は隣の和室でテレビを観ていた。叔母さんがトイレに行くと言ってリビングを出ていき、数分後。イギャアアアアアアア!物凄い…

お膳

Eさんが市内を流れる利根川に出かけ、一人で釣り糸を垂らしていた時のこと。三匹ほど釣れた後にじっと座って川面を眺めていると、視界の端に何かが現れた。浅いお盆に載せたお膳が水の上に浮いている。白飯と汁物と箸がお盆の上に並んで川面をゆっくり滑って…

転落

五年前の話だという。Hさんが職場に通う途中に神社の石段がある。両側に手すりはあるものの、見上げるような長い石段で、勾配も急だ。時折、神社にお参りする老人がよたよた上り下りしているのを目にしていたが、転げ落ちはしないかと心配していた。だからそ…

エビ

Oさんが中学生のとき、友人グループにHという男の子がいた。クラスの中であまり目立たないほうの無口な子だったが、落ち着いてどこか大人びたところがあり、Oさんとは特に仲が良かった。そのHが二年生の秋頃、学校を二日続けて欠席した。学校にも連絡がなく…