kidan

納屋

消防団に所属しているSさんが、市内の火災に出動したときのこと。燃えていたのは農家の納屋だった。古い木造のためか激しく燃え上がり、Sさんたちが到着した時には既に二階の屋根から炎が吹き上げていた。早速消防署のポンプ車と並んで消火作業に取り掛かっ…

プレゼント

Wさんは大学を出て地元の信用金庫に就職した。入ってから知ったのだが、慢性的に人手不足らしく、常に忙しい。外回りに事務の数々と、新人のうちから回される仕事が多かった。休日のはずの土日も、付き合いのある地元企業との会合が入ることが多く、休めない…

怖い絵

高校の美術部で顧問をしている教師のKさんの話。その美術部には怖い絵の噂が代々伝えられていた。十年以上前、Kさんがその高校に着任するよりもっと前のことだという。部活動中、ひとりの部員が描いたスケッチが妙に怖い。他の部員たちがひと目見て顔を覆っ…

洞穴の絵

Sさんの家には階段を下りた突き当りに油絵が飾られていた。ぼんやりした色合いの風景画で、木々の間に見える岩壁に洞穴がひとつ、黒々と口を開けている。父の祖父、つまりSさんの曽祖父が買ったものだという。物心付いた頃からSさんはこの絵が怖かった。特に…

夜風

Eさんは首筋に吹き付ける風を感じて目を覚ました。深夜、自室でテスト勉強をしていたのだが、いつの間にか机に突っ伏して眠り込んでいたようだ。時計を見ると午前三時。風はひょうひょうと音を立てて吹き込んでいて、窓のカーテンがはためいている。寒い。窓…

ピンクの手袋

Rさんが中学生の頃、家族のアルバムを見ていて気付いたことがあった。幼い頃の自分が、どの写真でも必ず手袋をしているのだ。写真の日付によると、一歳から三歳までは季節を問わずいつも手袋をしている。幼児用のいかにもかわいらしいデザインの手袋ではなく…

雪瓦

Nさんの住むアパートの隣に古い家があり、三階のNさんの部屋の窓からはこの家の二階の屋根がすぐ下に見える。瓦も何枚かずれているし、前の通りから眺めても庭は草だらけで窓も雨戸を閉め切られている。隣に住んでいても、人が出入りするところを見たことが…

ピンクのネクタイ

夜の十一時すぎ、自転車で帰宅する途中のこと。利根川を渡る長い橋の途中で、人がひとりこちらに歩いてくるのが見えた。鮮やかなピンクのネクタイを締めた背広姿の男だ。避けて走ろうと少し端に寄ったが、男の方もこちらを避けようとしたのか、同じ方に寄っ…

駅員

駅で電車を待っていた。夜九時過ぎで人の姿は少なく、次の電車が来るまで十五分ほど。ホームの端で缶コーヒーを飲みながら、ぼんやりと時間を潰していた。向かいのホームに利用客の姿はなく、駅員がひとり掃き掃除をしているだけ。その様子を見るともなしに…

マネキン事故

Nさんの車好きの友人が数カ月分の給料をつぎ込んで青いスポーツカーを買った。 かなりの値段だったようだが、生活費を切り詰めた上で親にもいくらか出してもらってやっと買えたとのことで、Nさんが乗せてもらったときは土足で入るのを断られたくらい大切にし…

ワイシャツ

Cさんが通っていた高校の近所に神社があり、そこであるとき首吊り自殺があった。駅から高校までの間にある神社で、境内を通るといくらか近道になるので、Cさんも何度も通ったことがある。ある朝そこを通ろうとすると鳥居の前にパトカーが横付けされており、…

スクラップ

Kさんが職場に通う道の途中に自動車工場があり、そこに隣接してスクラップ置き場がある。ここを通るとき、Kさんはいつも何となくイヤな感じがしていた。見通しがいい直線で片側一車線ながら道幅も広い。走りづらいところでは全くない。しかしそこを通るたび…

リクライニング

ある人が静岡から東京行きの高速バスに乗った。平日の夜で、乗客はまばら。前後も空席なので、気兼ねなく寛がせてもらおうと、シートを後ろに倒した。バンバン!後ろからいかにも不機嫌そうにシートが叩かれた。あれっ、後ろに誰かいるのか。いつの間に?シ…

ドッペル父さん

大学生のWさんが夏休みに帰省した。実家には両親と妹がいるが、帰省した四日間、なぜか父が二人いたという。最初に気になったのは実家に着いた直後だった。駅から父の運転する車に乗って家まで移動し、父が車庫入れしている間にWさんは家に入った。手を洗お…

アンチ・グラビティ

Sさんが高校生のとき、友人と一緒にバスに乗っていたところで、話の途中で友人が不意に言葉を切った。どうかしたの、と顔を見ると友人は窓の外を見つめながらポカンと口を開けている。何かに驚いているらしい。釣られて窓の外を見ると、すぐに変なものが視界…

おままごと

Wさんは結婚を期に、千葉に家を買った。新居に引越して間もない頃、家の近くを歩いていると住宅地の中に空き地を見つけた。周囲の家一軒分と同じくらいの広さだが、家の間にあってそこだけが空白になっている。手入れはされているようで、きれいに草を刈って…

朝球

出勤途中に通る住宅街でのことだという。何気なく視線を向けた電柱の上に、丸いものが乗っている。そのまま通り過ぎようとして、どうも気になって足を止めた。バレーボールくらいの大きさの白い球だ。子供が遊んでいてボールが引っかかってしまったのだろう…

路地もの

Fさんの職場の近くに細い路地があり、職場の三階にある休憩スペースの窓から見える。Fさんは休憩のたびに何となくこの路地のあたりを眺めるのが習慣になっていた。窓際のソファーに座って窓の外に視線を向けるとちょうどそのあたりが見えるのだ。ある時、気…

雨男

Sさんが高校生の頃、お父さんの運転する車で出掛けた帰りのことだという。急に大粒の激しい雨が降ってきて、ワイパーを動かしても前が見えにくいほどの状況になった。するとお父さんはあれっ、と声を上げて車を道端に停めた。お父さんは雨が吹き込むのも構わ…

夜犬

Kさんが転勤のため茨城から栃木に引越した。引越して二ヶ月ほどした頃、アパートの大家が来てこんなことを言う。Kさん、犬飼ってたりしてません?すぐに否定した。ペット禁止のアパートだし、犬など数年来触ってすらいない。大家の言うことには、他の住人か…

定期テスト

高校の定期テスト中のこと。生徒たちが答案と格闘している前に、監督役の先生がいる。五十代半ばの社会科の先生だ。先生は特に生徒たちに注意を向けるわけでもなく、本を読みながらじっと座っていた。そこへ前のドアからスッと誰かが入ってきた。それに気付…

みっちょん

Uさんの小学校の同級生にYちゃんという子がいた。UさんとYちゃんとは同じグループで遊ぶ友達だったが、Yちゃんの話の中にときどき、グループにいない子が出てくる。Yちゃんはその子のことをみっちょんと呼んでいた。同じクラスにも他のクラスにもそういう呼…

ジョギング

健康診断のたびに運動不足を指摘されていたTさんは、三十代半ばで一念発起して毎朝ジョギングすることにした。家から走って十五分ほどのところに霊園があり、Tさんの家のお墓もそこにあるので、そこまで行って手を合わせてから帰ってくる。別に目的地は他の…

叫び

真夜中のこと。Rさんがいつものように夫と幼い娘の三人で川の字になって寝ていると、夫が突然大声を上げた。 ああああああああああああ!! 横になったまま目を見開いて、ひどく怯えた様子で叫ぶ。その声で目を覚ましたRさんが宥めようとしたが、一体何がそ…

海天狗

釣り好きのKさんはよく海辺に釣りに行く。よく行くポイントでは同好の士と顔を合わせることも多く、そのうちの何人かとは連絡を取り合うくらいには親しい。あるとき釣りに行くと他に釣り人はいなかった。港の端の突堤で、いつ行っても数人は釣りをしているよ…

午後のロッカー

小学校で昼休み終了直後のこと。授業を始めようとしたところで、席が一つ空いていることに先生が気づいた。その席のF君は午前中の授業には出席していたし、給食のときにもいた。保健室に行ったという話も聞いていない。誰かF君のこと知ってる人は? と聞いた…

腐臭

深夜、Sさんがベッドに横になったところで鼻をつく臭いに気がつき、反射的に体を起こした。腐った魚のような嫌な臭いだ。寝室にそんな臭いのするようなものは置かない。部屋の外から入ってくるのかと思ったが、窓から顔を出してもそんな臭いはしないし、家の…

赤光

深夜、Fさんがベッドに横になってなんとなく寝返りをうったところで、赤い光が部屋に差した。まぶたを閉じていてもそんな感じがしたのだ。薄目を開けると部屋の反対側に小さな赤い光が横一直線に並んでいる。数えたら八個あった。何かの機械のランプが点いて…

窓の顔

Hさんは幼い頃から窓に顔が見えることがあった。ふと気がつくと部屋の窓のひとつに大きな顔が映っている。ガラス窓を覆うほどの大きな顔。男なのか女なのかもよくわからない。無表情に部屋の中を見つめているようでもあり、どこも見ていないようでもある。し…

お稲荷電車

都内の某駅でのこと。電車に乗って発車待ちの間、閉じている側のドアにもたれて何気なく窓の外に視線を向けていた。すると隣の線路に電車が入ってきて停まったので、隣の電車の車内を覗く形になった。その車内におかしなものがある。狐だ。稲荷神社の入り口…