雨上がり穴

日曜の午後、Nさんが四歳の息子と一緒に近所を散歩していたときのことだという。
昼過ぎまで雨が降っていたので道路にはところどころ水溜りができており、長靴を履いた息子は水溜りに踏み込んでは水しぶきを上げて喜んでいた。
これは帰る頃には泥だらけになりそうだな、と苦笑しながら息子のすぐ後ろを歩いていると、前触れなく息子の姿が視界から消えた。
はっと息を呑んで視線を落とすと、すぐ目の前の水溜りから息子の上半身が突き出ている。下半身は水面下だ。
息子本人はぼんやりした表情でこちらを見上げている。
慌ててその両脇を掴んで引き上げると、ようやく状況を理解したらしい息子は声を上げて泣きだした。
なんで道路に穴が開いているんだ、と困惑しながらNさんは水溜りに視線を戻したが、どうもおかしい。
水溜りの深さはどう見ても一、二センチ程度で、息子の下半身がはまり込むような穴があるように見えない。
Nさんは恐る恐る片脚を水溜りに入れてみたが、やはりそこには堅いアスファルトがあるだけだ。穴などない。
お前今どこに落ちたんだ、と息子の下半身をよく見ると、水溜まりに腰まで漬かったのが嘘のように乾いている。どういうことだ。
泣きべそをかく息子をなだめながら、Nさんはすぐ家に引き返したという。