相槌

深夜、Kさんは誰かの声で目を覚ました。隣で寝ている妻がボソボソと何か喋っている。
なんだ寝言か、と苦笑してまた目を閉じたが、妻の言葉はだんだんはっきりしてきた。
――そうなの。へえ、大変だったねえ。うん。うんうん。そうよねえ。
夢で誰かと話しているのか、さかんに相槌を打っている。随分はっきり喋っているものだから、妻が本当に眠っているのか疑問になったKさんはスマホで顔を照らした。
妻は目を閉じて口だけ動かしている。どうも本当に寝言のようだった。
――そう。だったらうちに来る? いいのよ遠慮しなくても。いいって。
声を聞いているうちに妻がそんなことを言った。夢で誰を招いているのだろう。
「ありがと、そうする」
そんな声が部屋の中で聞こえて、Kさんは思わず体を起こした。
妻の声ではなかった。もっと高い、少しかすれた子供の声だ。はっきり聞こえた。
誰だ、と明かりを点けてみたが部屋にはKさんと妻のほかに誰もいない。妻はもうそれ以上寝言を発さず、静かに寝息を立てていた。
翌日、妻がこんなことを言った。夢の中で小学生くらいの女の子が出てきてさ、うちの子になってくれるんだって。
Kさんはそうなんだ、女の子が欲しいの? と返事をしながら昨夜のことを思い出したが、それについては黙っていた。

 


その月のうちに妻が妊娠していることがわかり、やがて生まれてきたのは女の子だった。
あの夢の通りになったね、不思議、と妻は笑った。
Kさんはあの夜、部屋で聞こえた子供の声についてはずっと妻に話せていないという。