リボン

Kさんが独身の頃の話。
夜九時頃に帰宅してリビングの明かりを点けたところ、なぜか上のほうが華やかに感じられた。
ふと視線を上げると、蝶結びされたピンクのリボンが無数に天井を飾っている。
Kさんにそんな趣味はないし、天井を飾り付けた覚えもない。
独り暮らしだから外出中にそんなことをするような者に心当たりはない。
誰がこんな悪戯をしたのか。一体なぜ。
――なんでリボン?
困惑したKさんがそう呟いた、直後である。
「かわいいだろお?」
男の低い声が、右の耳元で聞こえた。絡みつくようで耳障りな声だった。
咄嗟に身構えたが、見回しても室内にはKさんの他に誰もいない。
しかしこんな悪戯をやらかした奴がまだ家の中にいるのか?
ぞっとしてもう一度上を見ると、リボンなどどこにもない。
それから家中を見て誰もいないことを確かめたものの、耳元で聞こえた声のねっとりした口調が酷く不愉快でしかたがない。
何がかわいいだクソッ!
Kさんは毒づきながら右耳を念入りに洗ったのだという。