2016-01-01から1年間の記事一覧

灰皿

Oさんが一人暮らししていた学生時代の話。 夜、部屋で床に仰向けになって煙草を吸っていたOさんだったが、ふと気づくと灰皿がない。 部屋で喫煙する時は百円ショップで買った小さな陶製の灰皿を使っており、この時もつい今しがたまでそれはテーブルの上に置…

バンザイ

Kさんには大学生の時から仲の良かったMという友人がいた。 気さくで社交的なMは友達が多かったが、特にKさんとはなぜか馬が合って一緒に行動することが少なくなかったという。 大学を出てから別の業種に就職しても頻繁に連絡を取り合い、月に一度くらいの割…

重い音

Wさんの高校生の長女が交通事故に遭い、全治六週間の怪我で入院した。 腕と脚の骨折という大怪我で、命に別状なかったのが不幸中の幸いだった。 ただ、事故の翌日あたりから家の二階で不可解な音が聞こえるようになったのだという。 夜、Wさん夫婦が居間で食…

ポスター

正月に帰省したKさんが三ヶ日も過ぎて川崎のアパートに戻ってきた時のこと。 実家を出たのがもう夕方のことで、途中で夕食も済ませてきたのでアパートに着いたのはもう夜の十時を過ぎていた。 一階でエレベーターを待っていると、背後から「こんにちは!」と…

身近で風邪とインフルエンザとノロとウイルス性胃腸炎の患者が出たので伝染りはしないかと気が気でないものの今週も奇談です。

旧合宿所

Fさんは高校でギター同好会に所属していた。 ギター同好会の活動は教室棟からグラウンドを挟んだ向こうにある建物で行われていた。教室や職員室から離れているから練習で多少大きい音を立てても迷惑になりにくいというわけである。 その建物はかつては合宿所…

泣き子

農家のYさんが田んぼで作業をしていた時のこと。 トラクターに乗って田んぼを耕していると、エンジン音に交じって子どものわめく声が聞こえた気がした。 気のせいかとしばらく無視していたものの、やはり幼い子どもの泣く声のようなものが何度か聞こえるよう…

友達の妹

高校生のFさんたちが学校帰りに友人の家に集まって遊んでいたときの話。 楽しく雑談をしていると、A君という友人の携帯電話が鳴った。 A君は部屋の端に立って電話に出たが、少し話しただけですぐに通話を終え、すまなそうな顔でみんなに言う。 「悪ィ、なん…

続・ススキ野原

Sさんが小学生の時の話。 当時、Sさんが友達と遊ぶ時によく行っていた場所があった。 もとは倉庫かなにかが建っていた敷地らしかったが、当時はもうすでに建物の基礎らしきコンクリートの地面がむき出しになっているだけで、その周囲を砂利とススキが取り囲…

無言の帰宅

Eさんが大学生の時の話。 講義が午前中だけだったので、午後は家の車庫の前にバイクを出して整備をしていた。 そこへスーッと一台の車がやって来てEさんの目の前に停まった。なんとなく違和感を覚えて視線を上げるとそれはEさんの父親の車だった。 まだ父親…

古雑誌

Mさんという女性が一人暮らしをしていた時のこと。 午後からなんとなく頭痛を覚え、その日の仕事はなんとか終えたものの、帰りの電車の中ではもう我慢できないくらいにズキズキと痛くなり、吐き気も催してきた。 フラフラと帰宅してから頭痛薬を飲み、食事も…

布団手

Fさんが小学生の時の話。 一人で留守番をしていたFさんは退屈しのぎに何か面白そうなものがないかと家の中を探し回った。 しかし毎日過ごす家の中にそうそう目新しいものがあるはずもない。大したものは見つからなかったが、そこでFさんはふと漫画の『ドラえ…

文化祭

Kさんは高校二年生の時、文化祭実行委員に参加した。 九月末の文化祭に向けて四月の内から打ち合わせや準備に奔走し、その甲斐あって大過なく当日を迎えることができた。 本番になってしまえばもう実行委員に大した仕事はなく、本部で待機するか校内を見回る…

焼き魚

真夏のことだったという。 夜九時過ぎ、Nさんが仕事から帰宅する途中でかすかな焼き魚のにおいを感じた。 干物かなにかを焼くにおいだ。 どこかの家で食事の支度だろうか。 少し時間が遅いけど、自分と同じように帰りが遅い人なのかな。 そんなことを考えな…

岩手の山間にある町で三十年ほど前にあったことだという。 初冬の明け方、道路脇の用水路で一人の老人が冷たくなっているのが発見された。 老人はその前夜にひどく酒に酔っているところを複数の人間に目撃されていたので、どうやら帰宅する途中に誤って水路…

野次馬

Nさんがふと気付くとまだ朝の五時前だった。 いつも六時過ぎになってから起きるのに、なぜかこの時はそんな時刻にひとりでに目が覚めてしまった。 もう一度寝直すと寝過ごしてしまいそうだし、仕方ないから起きるか、と着替えていたとき。 ゴッシャーン! 窓…

岩場の上

Wさんが職場の友人とタイに旅行に出かけた。 プーケット島ではボートで海を巡るオプショナルツアーに参加し、いくつかの入江や岩礁、小島を回った。 その最中、海上から海岸の岩場にふと目をやると人が二人立ってこちらに手を振っているのが見えた。 オール…

ありがたい

真夏の午後、Rさんが自宅のリビングで昼寝をしていたときのこと。 奇妙な夢を見た。 夢の中でRさんは何日も飲まず食わずで、空腹を抱えながら草むらの中に立っている。 今にも倒れそうだった。 すると向こうから何やら黒いかたまりが飛び跳ねてくる。 ごはん…

茨城の民話

Nさんが古本屋で平積みの安売り本を物色していると茨城の民話について書かれた本が目に留まった。 茨城県出身のNさんは何となくその本が気になって手に取ったところ、たまたま開いたページに郷里の地名が書かれている。懐かしさと百円という安さのためにNさ…

泥手形

レストランで働くMさんが夜の十時頃に仕事を終えて帰ろうとしたときのこと。 店の裏の駐車場に駐めてあるMさんの車のボンネットが一箇所、白っぽく汚れているのが街灯に照らされて見えた。 近寄るとそれは手形で、乾いた泥が開いた右手の形にべったりこびり…

ショートカットの女の子

大学生のEさんはあるとき友人からこんなことを言われた。 「昨日立川で女の子と一緒にいたよな。彼女?」 確かに前日に立川へ買い物に行ったものの、ずっと一人で歩き回っていて女の子になど心当たりがない。 友人に詳しく聞くと、立川のコーヒーショップでE…

きれます

二年ほど前、茨城県のある中学校でのこと。 その日は全校一斉の体力テストを実施していて、生徒がクラスごとに体育館やグラウンドに集まって各種の測定種目を順番にこなしていた。 その最中、体育館で二年生がシャトルランをしていた時のことである。 シャト…

屋台

主婦のNさんが中学生の時のこと。 二月のある夕方、学校帰りに一人で歩いていたNさんはふと違和感を覚えて立ち止まった。 そこは民家のブロック塀に挟まれた細い路地だったが、その塀の曲がり角の先がなぜか妙に明るい。 首を伸ばしてその先を覗き込むと、な…

熱風

Aさんが小学五年生の時のこと。 冬休みのある日の午後、仲のいい友達数人と町の神社に集まって隠れんぼをしていた。 縁の下で息を潜めて隠れていたAさんだったが、突然そこへザワザワと境内の木々が一斉に鳴る音が聞こえてきた。 一瞬遅れて、真夏の風のよう…

ついてきたもの

Hさんの娘夫婦がそれまで住んでいたアパートから引越して、Hさん宅の近くの借家に住むことになった。 急に決まった話で、引越しの直前までHさんもその話を聞かされていなかったので、その経緯を娘に尋ねた。 すると娘は何やら口にするのを躊躇う様子である。…

赤いコート

小雨の降る冬の朝のことだったという。 Kさんが出勤のために駅で電車を待っていると、向かい側のホームの真っ赤な人が目についた。 目が覚めるように鮮やかな真紅のコートを着た若い女性で、電車を待つ人々の間をゆっくりと歩いている。 随分派手な色のコー…

カエル石

二十年ほど前、Kさんが就職して引っ越した頃のこと。 新居のアパートの裏手には小高い山があり、遊歩道もあって誰でも入れるようになっていた。 Kさんはそれまで街中に住んでいたので山の風景が珍しく、暇な時は度々この山を歩いた。 ある日曜の午後にもこの…

本棚の奥

Nさんが大学に入学してすぐの頃のこと。 本好きのNさんにとって大学の大きな図書館は憧れだったので、空いた時間に早速行ってみた。 三階建ての図書館にはNさんがそれまで通った小、中、高はもとより地元の市立図書館と比べても蔵書が多く、ずらりと並んだ本…

パネル

春先、ある中学校でのこと。 出勤してきた教師が、校舎一階の窓ガラスが割れているのを発見した。 それは校庭に面した窓の一枚で、前日最後に退勤した教師が見回った時には特に変わったところはなかったので、夜の間に誰かが割ったらしいと推測された。 不審…

早すぎた

Nさんという男性は高校生の頃に父親を事故で亡くし、それから二十代で結婚するまでは母親と二人暮らしだった。 ある日仕事から帰ってくると、何やら母が涙ぐんでいる。そして家が線香臭い。 何かあったのかとNさんが尋ねると、涙ながらに母は語った。 一人で…