2021-01-01から1年間の記事一覧

隣の教室

高校で三年生が授業中のことだという。バタバタバタッ、と数人が廊下を走っていく足音、そして隣の教室のドアを乱暴に開ける音が響いた。足音の主たちは隣の教室の中へなだれ込んでいき、なにやらバタンバタンと跳ね回っているようだ。机や椅子を引きずるよ…

教授の客

Rさんが大学生のときのこと。教授に質問があって研究室に行くと、研究室のドアの前にスーツを着た老人が立っている。真っ白な長いあごひげを蓄えた禿頭の老人だ。彼が少し猫背になってドアをノックすると部屋の中から教授の声でどうぞ、と聞こえた。老人はド…

ポスト

Wさんが通勤で使う駅までの途中に郵便局がある。ある夜、帰りにその前を通りかかるとポストの投函口に白い物がはみ出している。街灯の光を受けて、白い手袋かなにかが投函口に挟まっているのが見える。誰かの悪戯か、あるいはうっかり忘れていったのか。どう…

胡瓜

バスで通勤するRさんが帰宅する途中のこと。窓際の席で外を眺めながらぼんやりしていると、通路側から声がした。「隣いいですか」どうぞ、と反射的にRさんは答えながらそちらに視線を向けたが、誰も立っていない。あれっ、俺に言ったわけじゃないのか返事し…

跳ねもの

Uさんが親戚の法事のために東京から山梨へ移動中、午前八時頃のこと。妻と二人、車で山道を走っていると前方の上空になにか浮いている。鳥かと思ったが近づくにつれてシルエットがはっきりしてきて、どうも鳥らしくない。どんどん大きく見えてくる。どうやら…

トラロープ

Kさんが結婚して間もない頃の話。夜中に散歩がてら近所のコンビニまで行こうとすると、妻も一緒に行きたいというので二人で家を出た。コンビニは歩いて十分ほどのところで、車で行くほどの距離ではない。もう午前零時を過ぎていて、あまりうるさくするのも良…

花柄の浴衣

Wさんの家の近所に農協があり、その駐車場の隅にもう何年もの間、同じ車が放置されていた。白いミニバンで、タイヤが全てパンクしている。農協の職員がどう考えているかわからないが、とにかくずっと同じところに置いてある。ある夜、帰宅途中のWさんがここ…

茶鳴り

高校生のEさんが放課後の教室で友人と話していた。そこへもうひとりの友人がやってきて会話に参加してきたが、すぐに怪訝な表情でこう言った。なにか鳴ってない?携帯かな、と確かめてみるが特に着信も通知もない。いやそうじゃなくて、なんかお祭りみたいな…

サッカーコート

Oさんが高校三年生の時の話。受験に向けて勉強に励んでいたOさんは、授業のない土日にも学校の自習室に通っていた。家でも勉強はできるものの、自習室には他にも勉強に来ている生徒たちがいるので、自分も頑張らねばという気分になれるからだ。ある土曜日に…

巾着

Kさんは高校卒業まで大阪で暮らしていた。三つ年上の姉がいて、小学校にも一緒に通った。そうして姉と並んで家に帰る途中に商店街があって、端の方に理髪店と肉屋が並んでいる。その境目でお爺さんが二人、道端に机と椅子を出してよく将棋を打っていた。そし…

神社の土塀

よく晴れた初夏の昼下がり、Eさんが友人との待ち合わせで公園にいた。公園の隣に神社があり、境界は長い土塀になっている。土塀に沿うようにベンチが置かれていて、Eさんはそこに腰掛けて友人が来るのを待っていた。スマホの画面を眺めながら時間を潰してい…

トシヒロ

中学校の体育の授業中のこと。グラウンドでサッカーをしている最中、生徒のひとりが校舎を指差した。あそこ、誰かいる。近くの生徒たちも視線を向けると、屋上に人の姿がある。屋上に突き出した塔屋の上に、制服姿の男子生徒の上半身が見えている。こちらを…

元気なお菓子

Nさんが五歳の娘を連れて買い物に行った。スーパーのお菓子売り場に近づくにつれて娘はそわそわし始める。スーパーに行ったときはひとつだけ娘の選んだお菓子を買ってあげることになっているからだ。選んできていいよ、と言うと娘は小走りでお菓子の棚に向か…

川女

Tさんが大学生のとき、初めて彼女の部屋に泊まった夜のこと。ふと目を覚ますとまだ真っ暗で、うっすら見える時計は午前四時だ。もう一眠りしようと目を閉じたが、そこでアパートの玄関ドアが開く音が聞こえた。誰かが部屋に上がってくる。目を開くと女がひと…

スマホ爺

高校生のKさんのクラスで、女子生徒数人が集まって会話していた。朝の始業三〇分前くらいのことで、教室内にはだんだん生徒が多くなってくる時間だ。女子生徒たちはいつものように大声で話しているので会話の内容が教室中に筒抜けだった。Kさんはそのとき自…

南国の風

学生のEさんが夢を見た。周りに木が等間隔に並んでいる。畑だろうか。大きな葉が八方に広がる、南国の植物だ。照りつける日差しは強く、肌が焼けてしまうなと思ったが、木々の間を抜ける風が汗を乾かしてくれて心地よい。さらさらと葉が風に揺れる音を聞きな…

じゃれつきまだら

Eさんが高校生の時のこと。学校へ向かう途中、前を歩く同じ学校の男子生徒の足元に犬かなにかがさかんにまとわりついていた。子犬かな、かわいい、と思ってよく見ると犬かどうかよくわからない。白と茶色のまだらで、ふわふわしている。あるいはぼんやりして…

洟と靴下

Nさんが今のマンションに引越してから半年ほど経った頃だという。出かける時に玄関ドアを閉めると、いつも決まって洟をすするような音がすることに気がついた。引越した当初からそういう音がしていたかどうかはわからないが、気がつくと毎日その音を聞いてい…

白窓

真冬にHさんが自宅で過ごしているときのこと。ふと窓に目をやると真っ白になっている。雪かと思ったがそうではないことはすぐわかった。雪が積もって一面雪景色になっているのではない。窓一面が真っ白になっていて何も見えないのだ。そもそも雪の予報もなか…

トランペットとセーラー服

高校の吹奏楽部の話。近隣の二つの高校の吹奏楽部と合同で演奏会を開催した。本番は盛況のうちに終わり、会場となった文化ホールから撤収するときのこと。楽屋を片付けて、そこにいた数人全員が廊下に出た。中にもう誰もいないことをチェックしてから、副部…

二本足

Kさんが小学生の頃、お母さんが病気で入院していた。病状は思わしくなく、子供の目から見てもお母さんは徐々に弱っていっていた。そうしてある日、学校で授業中に教頭先生がKさんを呼びに来た。今しがたお父さんから電話があり、お母さんの容態が急に悪くな…

渦魚

Uさんが小学生の頃、家で犬を飼っていた。この犬の飲み水用に、プラスチックのボウルに水を入れていつも犬小屋の脇に置いてあった。ある時Uさんがこのボウルを確認したところ、縁までなみなみと水が満たされている。ちょっと入れすぎじゃない? お父さんが入…

駐車場の女

十年以上前、山梨に住むEさんが仕事で静岡に行った帰りのこと。夜の十一時を過ぎた頃にようやく山梨に入ったが、仕事と運転の疲れのせいか猛烈に眠い。ハンドルを握りながら今にも瞼が落ちそうだ。これではいかんとどこか仮眠を取るところを探すと、ちょうど…

老夫婦の記念写真

Gさんが一人で伊豆に旅行して、帰ってきた日のこと。旅先で撮ったデジタルカメラのデータを見返していると、途中でひとつだけ、覚えのない光景があった。写真の中央に老夫婦が並んで立っている。二人とも穏やかな表情でいかにも仲睦まじい夫婦といった印象だ…

吹雪手

風と雪が強い夜だったという。日没後から風がかなり強くなり、家が揺れるほどになってきたので窓のシャッターを下ろそうと窓に手をかけた。そこにパンッと軽い音を立てて、隣の窓ガラスに手のひらが張り付いた。手袋が飛ばされてきたのかと思って目をこらし…

夜の巨人

午後七時頃、Fさんが仕事から帰宅すると家に明かりがついていない。いつもなら妻と娘がいるはずの時刻だ。しかし家の中がしんとして人の気配がない。携帯にも特に連絡はなかった。台所や娘の部屋も覗いたが誰もいない。なにか急用で二人とも外出したのだろう…

電灯外し

ある朝Eさんがマンションの自室で目を覚まし、こたつの上に置いた眼鏡を取ろうとして異変に気がついた。こたつの上に眼鏡だけでなく、蛍光灯が載っている。ホコリを被った丸形の蛍光灯だ。なぜこんなものがここに、と天井を見上げると蛍光灯がついていない。…

武士坂

Kさんの住む街に落ち武者が出るという噂の坂がある。近隣では武士坂と呼ばれているが、これは俗称で正式な名前は特にない。住宅街の中にある緩い勾配の坂だ。幽霊か不審人物か正体は定かでないが、とにかくそこで鎧を着た落ち武者に出くわしたという話をKさ…

砂利道

Nさんの実家の近くに舗装されていない砂利道があり、見通しがよい一本道なのだが、通行者が少ない。舗装されていないから自転車で通る人がほとんどいないのは当たり前としても、車の通りも少ないし、歩いて通る人は更に珍しい。この道を通ると何か出る、とい…

ゆうた

大学生のBさんが講義中に居眠りした。大教室での講義だったせいか先生に見咎められることなく終了まで意識がないままで、終わってから友人に起こされた。すでに他の学生は教室から去っている。寝ぼけ眼のまま慌てて教科書とノートを片付けようとして、ふとノ…