除夜

2008年末、除夜のことだという。
当時大学生だったKさんは、実家の自室でベッドに横になりながら漫画を読んでいた。
そのうちにうとうとしてきたが、このまま眠ればおそらく朝まで起きないだろう。
せっかくだから日付が変わるまで起きていようかな、と迷いながらもそのまま起き上がらずにいた。
そうしているうちにいよいよ眠くなってきたので、開いていた漫画本を胸の上に伏せてまぶたを閉じた。
その途端にふっと体が軽くなるような感覚に襲われた。エレベーターで下るときのような浮遊感だ。
なんだろうと思って目を開けると、視界が妙に狭い。部屋の天井が近いのだ。
どういうことかと顔を横に向けると、自分の体が天井近くにまで持ち上がっていた。横になった姿勢のままベッドの上に浮いている。
状況を理解できずに起き上がろうとしたところで、吊っていた糸が切れるように落下した。ベッドの上にまともに落ちて、衝撃でベッドの枠が割れた。
Kさんに怪我はなかったが、どういうわけか、壊れたベッドから身を起こそうとした拍子に脈絡のない光景が頭にひらめいた。
三つ年上の兄の結婚式の光景だ。
あまりに鮮やかにその光景が頭に浮かんだものだから、過去のことだったろうかと混乱したが、確かに兄はまだ独身だ。
付き合っている彼女がいるとも聞いていない。翌日に本人に尋ねたところ、彼女なんていないということだった。


ところが年が明けた2009年の2月、兄は友人から紹介された女性と付き合い始めた。そして半年の交際を経てその年のうちに結婚式を挙げた。
式の光景は大晦日にKさんの脳裏に浮かんだものとぴったり同じだったという。