卒倒

三月に行われた中学校の卒業式でのこと。
式の最中に二年生のFさんという女子生徒が倒れて、保健室へと運ばれていった。急に気分が悪くなったということらしい。
Fさんと同級生で親しい友人のKさんは心配したが、式を抜け出して後から付いていくわけにもいかない。空いてしまったFさんの席を横目でチラチラ見ながら上の空で式に参加していた。
誰だかよく知らない来賓の話が終わり、生徒も立ち上がって礼をしてから着席した。
その拍子にまたKさんはちらりとFさんの席に視線を向けたが、なんとFさんが戻ってきている。
いつの間に来たのだろうか、Kさんは全く気が付かなかった。
顔色もいつも通りで特に気分が悪そうな様子はない。安心したKさんはFさんに手を振りそうになったが、卒業式の最中なので思い留まった。
それからはKさんも式の方に意識を向けることができ、やがて卒業生が退場して式が終わった。
改めてFさんに手を振ろうとしたKさんだったが、するとFさんの姿がない。そこだけ席が空いている。
あれ? どこ?
そのまま在校生たちは体育館の片付けをしてから各々の教室へと引き上げた。
教室へ戻ってもFさんはいないままだ。また保健室へ戻ったのだろうか。そう考えたKさんはホームルームが終わるとすぐに保健室へと向かった。
すると予想通りFさんは保健室のベッドに横になっている。
Kさんが近寄るとFさんは体を起こした。
また保健室に戻ってきたんだ、そんなに調子悪いの? Kさんがそう聞くとFさんは不思議そうな顔をする。
私、気分悪くなってからずっとここにいたけど。
保健の先生も同意した。式から今までずっとFさんはベッドに横になっていたという。
Kさんは体育館に戻ってきたFさんを確かに見ている。それでは辻褄が合わない。
だがそう言われてみれば、式の間にFさんが体育館に戻ってきたときも再びいなくなったときも、そんな気配はなかった。静まり返った卒業式の最中である。誰かが体育館に出入りすればすぐわかるはずだ。
卒業式のときにFさんの隣に座っていた生徒にも後で尋ねてみたが、やはりFさんは式の間には戻ってきてはいなかったという。
――でもあれは確かにFちゃんだったんです。見間違えじゃないです。
そうKさんは語った。