2015-01-01から1年間の記事一覧

猿がいる

ショッピングモールの事務室で働くFさんの話。 休みの日に彼氏と出かける、と言っていた同僚の若い女性の様子が休み明けの数日ずっとおかしい。 彼氏と喧嘩でもしたのだろうか……とも思ったが、それにしては何だか妙に周りを気にしたり、何もないのに突然ビク…

メトロノーム

主婦のNさんが大学生だった時の話。 バレー部に所属していたNさんは練習のため毎日帰りが遅く、後片付けと着替えをして部室を出る頃には夜九時を過ぎているのが当たり前だったという。 もうその時刻には当然校舎は施錠されているのだが、それでも学内に残っ…

まとわりつくもの

20年ほど前、Kさんが結婚してすぐのこと。 Kさんの夫の実家はKさん夫婦の新居と眼と鼻の先にあり、同居こそしていなかったもののお互い頻繁に行き来していた。 ある日の昼下がり、友人からリンゴを沢山貰ったKさんはお裾分けしようと夫の実家まで歩いて行…

風呂上がり

ある夜、奥さんが風呂に入っている間にNさんはPCで動画サイトを観ていた。 何本か短い動画を見終わった頃、ヘッドフォン越しに風呂場の扉が開閉する音が聞こえてきた。 奥さんが出てきたら次はNさんが入浴する番だが、奥さんが歯磨きと身支度をして出てくる…

開けたままで

Fさんが当時付き合い始めた彼氏の家に初めて行った時のこと。 彼は2Kのアパートに住んでいたが、綺麗に整頓されていて気持ちのいい部屋だった。 しかしなぜか備え付けのクローゼットが全開になっていて、中の収納ボックスやら吊るした服やらが丸見えになっ…

走る男

Nさんが友人たちと那須にスキー旅行に行った時の、帰り道でのこと。 日が傾いてきた山道を友人が運転する車に乗って移動中、運転席の友人が「おっ?」と声を上げた。 どうした?と聞くと前方に顎をしゃくって「こんな道でジョギングってすげえな」と言う。 …

停留所

Tさんは高校への通学にバスを利用していた。 それなりに利用客の多い路線ではあるのだが、Tさんの家に近い停留所は峠の上にあり、他の客があまり乗り降りしない。 だから乗る時も降りる時もほとんどTさん一人で、そのためバスの運転手にも顔を覚えられたくら…

冷蔵庫の声

Sさんが仕事から帰ってきて自宅のアパートへ帰ってきたときのこと。 玄関の鍵を開けて家へ入ると、台所に妻が立っているのが見えた。 ただいま、と声をかけたが返事がない。 どうかした、と台所へ入って妻にもう一度声をかけたが、妻は無言で冷蔵庫をじっと…

大浴場

Rさんが友人の結婚式に出席するために新潟へ行ったときのこと。 二次会が終わって友人が用意してくれたホテルに戻ってきた時にはもう日付が変わっていた。 寝る前に汗を流してくるか、と大浴場へと向かった。 夜も遅く、大浴場が閉まる時刻まであまり余裕も…

しずく

Eさんが高校生の時の話。 学校の廊下を歩いているとすれ違った先生に呼び止められた。 「何か垂れてますよ」 目を凝らすとEさんが歩いてきた床に何かのしずくがいくつも落ちて、十数センチメートルくらいの間隔で点々と足元まで続いている。 しかしその時は…

テレビの中

Uさんという女性は二十三歳の時に結婚して翌年女の子を授かったが、その頃から夫の行動がどこかおかしいと思い始めた。 仕事が長引いたと言って帰りが遅くなることが多くなり、休日もあまり家にいない。 結婚したての頃はそんなことはなかったのでだんだん怪…

スタッフルーム

Aさんがファミリーレストランのチェーン店でアルバイトをしていた時のこと。 休憩時間にスタッフルームのソファーで横になっていると、部屋の隅に置いてあるポリバケツが大きな音を立てた。 びっくりして跳ね起きたAさんが目をやると、音を立てたらしきバケ…

書斎

Eさんが大学生の時、お母さんが倒れてそのまま入院した。 病名は検査結果が出るまではっきりしないということで、お父さんと一緒に病院へと駆けつけたEさんは一旦帰宅することにした。 病院へはお父さんの運転する車で行ったが、お父さんはもう少しお母さん…

先週金曜日の夜のことだったという。 午後10時過ぎに仕事帰りのYさんが車を走らせていると、信号で前の車に追いついた。 前に停まっているのは黒い軽自動車だったが、どうやら後部座席に子供が乗っているようで、小さい頭が左右に動いているのが後部ガラス…

修学旅行の夜

Rさんが高校の修学旅行で京都に行ったときのこと。 割り当てられた部屋で風呂の順番待ちをしていたところ、Fという同級生が飲み物を買ってくると言って部屋を出て行った。 しかし風呂の順番が回ってきても戻ってこない。 後から来るだろ、と先に大浴場に行っ…

第三回文学フリマ大阪についての告知

このブログで時々名前が出てくる椎名春介君が今月20日(日)に堺市産業振興センターで開催される「第三回文学フリマ大阪」で頒布される同人誌に寄稿しました。 「C-08」で出店するサークル「絵空少女」の新刊『4C』(1冊500円)に椎名春介氏による伝奇小説…

歩いてきたもの

二年前の夏のことだという。 Mさんが彼女と一緒に海に出かけ、帰ってきた時には夜八時を過ぎていた。 彼女を家まで送っていく予定だったが、少し名残惜しく感じてコンビニの駐車場に車を駐めてしばらく二人で喋っていた。 道路に車の通りはそれなりにあった…

掛け軸

高校生のFさんが自宅の和室で昼寝していた時のこと。 ふと近くの物音で目を覚ました。 横になったままそちらに視線をやると、床の間に掛かっている山水画の掛け軸がゆっくり揺れている。 風かと思ったが障子も襖も閉めきっているのでそんなはずはない。 なぜ…

笑い声

小学校の教員をしていたEさんが二十年ほど前に体験した話だという。 その日は仕事が多く溜まっていて、それを片付けているうちに夜九時を過ぎていた。 流石にもう帰ろうということで、一緒に残って仕事をしていた同僚の若い先生と後片付けをしていると、彼が…

キスマーク

Mさんが高校一年生の時、Uという友人から深刻そうな顔で相談をされた。 ――近頃毎晩同じ夢を見る。でもそれが本当にただの夢なのか心配になってきたんだ。 夢ってどんな?と聞くと、知らない女が部屋に入ってくるのだという。 その女は動けないUさんをじっと…

独楽

Oさんは夫と娘の三人家族で、娘が幼い頃は一軒家を借りて住んでいた。 その頃の話で、夫の帰りが遅くなったある夜のこと。 夫からの電話で帰りは十二時を過ぎてしまうということで、娘は先に寝かせることにした。 九時頃に娘を布団に入れ、自分も隣に少し横…

壁の向こう

Mさんが水戸に住む母方のお祖母さんの家に泊まりに行った。 その日の夜、二階の和室に布団を敷いて寝ていたところ誰かの足音で目が醒めた。 部屋が真っ暗なので誰が歩いているのかは見えないが、畳を踏む音が枕元を通り過ぎたと思うとまた反対向きに移動して…

しゃがんだ女の子

Hさんが病院で医療事務の実習をしていたときの話。 覚えることが多く、忙しい日々を送っていたHさんだったが、ひとつだけ気になることがあった。 三階のナースステーションに入るときには必ずと言っていいほど同じ子どもの姿を見るのである。 小学生低学年く…

寝相

Tさんの三歳になる長男は妙に寝相が悪かった。 毎晩Tさんも一緒の布団で寝るのだが、朝起きた時に布団の中にいる方が珍しいくらいだった。 不思議なことに、Tさんと奥さんの間に長男を挟んで川の字で寝ていても、朝になるとTさんや奥さんを飛び越えたように…

普段と違う

学習塾に勤める人の話。 その日の最初の授業はMちゃんという小学生がひとりだけだった。 中学生は部活動が終わってから来るので、その前の時間帯は小学生だけということも多い。 生徒が小学生一人なので、職員も担当講師一人だけ。 普段は事務担当の職員が一…

冷蔵庫

高校の授業で調理実習を行ったときの話だという。 材料はあらかじめ家庭科の先生がまとめて買っておいて、調理室の前にある冷蔵後にしまってあった。 授業の直前、班ごとに材料を配るために先生が冷蔵庫を開けたが、その直後なぜか勢い良く冷蔵庫のドアを閉…

報せ

Fさんが独身の頃に住んでいたアパートでのこと。 日曜日の午前中にゆっくり寝ていると天井からコツコツと音がする。 その部屋は二階の角部屋で、上はすぐ屋根だ。だから時々ハトだかスズメだか、野鳥が屋根の上を歩いているらしき足音が聞こえることはあった…

路面電車

Hさんが職場の飲み会に参加した後のこと。 ある先輩がすっかり酔いつぶれてしまったので、帰る方向が同じだったHさんともう一人の同僚で送っていくことになった。 先輩の家の最寄り駅で下りたところ駅前にはタクシーもいない。 仕方なく先輩を半ば引きずるよ…

白無垢

Tさんは大学を出てから約三年間、衣料品店で店員として働いていた。 勤めていた店舗は大きな十字路の一角にあり、大通りを挟んで斜向かいに葬儀場のビルがあった。 お昼休憩などで店舗の外に出た時に、その葬儀場に葬儀の参列者が出入りしているのを見ること…

染み

二十年ほど前、Wさんが大学生のときの話。 課題のレポートに必要な本を友人が貸してくれたので、徹夜で片付けてしまおうと机に向かっていた。 なかなか書き進まないことにもどかしさを感じながらも少しずつレポート用紙を埋めていると、ふと目の前にぽたりと…