主婦のNさんが大学生だった時の話。
バレー部に所属していたNさんは練習のため毎日帰りが遅く、後片付けと着替えをして部室を出る頃には夜九時を過ぎているのが当たり前だったという。
もうその時刻には当然校舎は施錠されているのだが、それでも学内に残っている学生は他にもちらほらいて、誰もいない日の方が珍しいくらいだった。
その日の帰り際にNさんが大学の中庭で見かけたのはダンスの練習をする女の子のグループで、中庭の片隅の街灯の下で三人並んで踊っていた。
大学祭が二週間後に控えていたから、恐らくその有志ステージに出演するために練習していたのだろう。
バレー部の友人と連れ立って歩きながら見るともなしにそのダンス練習を見ていると、三人だと思っていた彼女たちが四人いるのがわかった。
四人目は灰色の服を着ているので暗がりに溶けて見えづらかったようだった。
――ダンスの練習するならもっと明るい服を着て動きがわかりやすいようにすればいいのに。
そんなことを考えながら彼女たちの動きを眺めていたNさんだったが、よく見るとその灰色の服の子の動きが他の三人と全く合っていない。
三人はそれなりに息の合った踊り方なのに、灰色の子だけはただ体を左右に揺らしているだけだ。体をピンと直立させたまま、足の先を支点に揺れている。
下手くそだとか練習不足だとかいう以前に、そもそも合わせるつもりがないようだ。
何あれ変なの……と思いながら見ているうちに、だんだんその揺れ幅が大きくなってきた。
まっすぐ伸ばした体が地面に対して45°くらいまで傾いても倒れずに、そのまま跳ね返って左右に往復運動している。まるでメトロノームだ。
とても人間のできる動きではない。
その人間メトロノームの動きと他の三人のダンスのテンポがまるで違っていて、見ていて酷く不快だった。
気持ち悪い……。
「どうかした?」思わずうつむいてしまったNさんに、一緒に歩いていた友人が声をかけてくれた。
Nさんは友人に説明しようとしてダンス練習の方を指差したが、もうその時には灰色の揺れる人影は消えていて、三人だけが何事もなく踊り続けていたという。