キスマーク

Mさんが高校一年生の時、Uという友人から深刻そうな顔で相談をされた。
――近頃毎晩同じ夢を見る。でもそれが本当にただの夢なのか心配になってきたんだ。
夢ってどんな?と聞くと、知らない女が部屋に入ってくるのだという。
その女は動けないUさんをじっと朝まで眺めている。女が消えたと思うと朝になっている。
最初はただの夢だと思っていたが、夢にしては妙に感覚が生々しい。
だんだん本当にその女が部屋に入ってきているんじゃないかと気になりだして仕方がない。
だから一度同じ部屋に寝て確かめて欲しいのだという。
Mさんともう一人のKという友人はその話をそれほど本気にせず、単にUの家に遊びに行くくらいのつもりで気軽にその頼みを聞いた。


早速その次の日の夜、Uの部屋のベッドの脇に布団を二組敷き、MさんとKがそこに寝ることにした。
夜十二時を過ぎた頃に部屋の明かりを消し、三人とも寝床に潜り込んだ。
特に何も変わったことがないまま眠りについたMさんだったが、しばらくしてUが何かボソボソ話す声で目が覚めた。
何気なくベッドの上に目をやったMさんはその光景に目を疑った。
ベッドの向こう側の壁から着物姿の女の上半身が横向きにまっすぐ生えて、寝ているUを横切るように覆い被さっているのだ。
なぜか暗い部屋でも女の姿ははっきり見える。
(女ってあれか!?)
Uはその女に向けて話しかけているのか、うわ言のような言葉を呟いているのだが、何と言っているかは聞き取れなかった。
Mさんの位置からは女の顔は陰になって見えないが、怖くてとても見る気にはなれない。
(何だあれ、何で壁から出てるんだよ!)
うろたえながらも目を逸らせないMさんだったが、その時隣で寝ていたKが「わっ!」と大声を上げて布団を跳ね除けながら飛び起き、壁際に跳んで電灯のスイッチを入れた。
明かりが点いてみると壁から生えていた女の姿はどこにもない。
ただ、唸り声を上げながらまだ眠っているUの顔面には、いつの間にか真っ赤なキスマークが五つほどべったり付いていたのだという。