2015-01-01から1年間の記事一覧

鈴蘭

Hさんは職場で知り合った男性と付き合い始め、一年半後に結婚した。 新婚旅行でイタリアに着いたその晩の話。 到着したのは現地時間でまだ夕方だったが、慣れない飛行機に十時間以上乗っていたので二人ともすっかり疲れていた。 夕食をとってから早々にホテ…

雨合羽

受験生のRさんが休日に自室で勉強していたときのこと。 二時間ほど根を詰めて机に向かっていたので少し休憩しようと、窓際に寄って網戸越しに外を眺めた。 初夏の午後で少し暑いくらいの陽気のせいか、外を歩いている人はほとんど見当たらない。 Rさんの家は…

腹痛

小学校教師のEさんはその日、家を出てからすぐに脇腹の痛みを覚えた。 初めはチクチクと刺すような痛みが時々わずかに顔を覗かせる程度で、それほど気にはならなかった。 しかしやってくる痛みの間隔が昼頃から徐々に短くなり、強さも増してくる。 何とか午…

Tさんの親戚のおじいさんが亡くなったときの話。 人手が必要だということで学生だったTさんはお通夜の日から泊まりがけで隣県の親戚宅に手伝いに行った。 夜は居間の隣の和室に寝かせてもらったが、何となく寝苦しい。 移動と手伝いの疲れのせいだろうと考え…

映るもの

Sさんは大学受験に失敗して一年間浪人生活を送った。 自宅にこもっているとついつい怠けてしまいそうなので、週に四日ほどは電車で一時間ほどかけて予備校に行っていた。 予備校に行く日は大体朝の七時くらいに家を出て、授業の終わるのが午後四時頃。 それ…

軍手

Hさんがアパートで一人暮らししていた頃の話で、暑い夏の盛りだったという。 自室で夕食をとった後、テレビを見ながらのんびりしていると天井の蛍光灯の周りを虫が飛び回り始めた。 どこから入ってきたのかわからないがそれはコガネムシの類で、天井やら壁や…

角材

大学生のTさんが夕方、アルバイトからの帰り道を歩いていた。 元々人通りが少ない住宅街だったが、そのときは特に人影が無いように感じられたという。 しかしアルバイトで疲れていたこともあり、特に不審感を覚えることもなく一人で歩いていると、目の前の空…

イシダイ

釣りが趣味の中学生の話。 秋頃に仲の良い友達二人で釣りに行った。 朝早くから港へ行き、護岸に座って糸を垂らした。 凪いで波も弱く、あまり釣れそうな感じもなかったのだが、予想に反して順調な釣果があった。 持ってきたクーラーボックスが一時間ほどで…

バンガロー

大学生のSさんが友人たちとレンタカーを借りて泊まりがけのドライブに出かけた。 宿泊には県内にあるキャンプ場を予約してあり、そこへ着いたのは夕方五時過ぎ。真っ赤な夕焼けが鮮やかに辺りの山を照らしていた。 そのキャンプ上は予約すればバンガローを借…

このまま帰れます

新婚家庭での話。 奥さんがリビングで洗濯物を畳んでいると玄関の開く音がした。行ってみると夫が帰ってきている。 しかしいつもより二時間ほど帰りが早い。早く帰るとも聞いていなかった。 今日はどうしたの、と尋ねると夫はひどく頭が痛いという。顔色もか…

ハンバーグ

Fさんが小学五年生のときの話。 夕方学校から帰ってくるとお母さんが台所にいて食事の準備をしていた。 両親は共働きで普段はFさんが一番早く帰ってくることが多かったが、お母さんの言うことにはその日はたまたま早く帰れたのだという。 「今日のごはんは大…

居酒屋のトイレ

学生時代に居酒屋でアルバイトをしていた人の話。 開店前にトイレ掃除をしようと男子トイレに入った。 その店の男子トイレは小便器がひとつと個室がひとつ向かい合わせになっており、まず小便器の方から片付けようとした。 すると背後で個室のドアが開く音が…

水槽の中

Tさんという女性が当時付き合っていた男性と水族館に行った。 付き合い始めてから一ヶ月ほどのアツアツの時期で、水族館でも魚にはあまり目を向けずに手を繋ぎながらうっとり過ごしていた。 半分ほど順路を回ったあたりの長椅子で並んで一息ついていたところ…

Fさんが高校二年生の春にお祖母さんが亡くなった。 二年ほど前から骨の病気で寝たきりになっていたのだが、二ヶ月前からは病状が悪化して入院していた。最後の十日間くらいは意識もほとんど戻らず、家族の呼びかけにも時々寝言のような声をあげるばかりだっ…

大口

車で通勤している人の話。 職場に向かう途中に人通りのそれなりに多い交差点がある。 毎日同じくらいの時刻にそこを通るのだが、信号待ちをしているとそこを通る歩行者の顔ぶれも毎朝大体同じなことに気がついた。 朝は歩行者も通勤や通学の人が多いのだから…

山道

転勤で初めての土地に移り住んだ人の話。 引っ越しの直後、道を覚えようと近辺の地図を参照しながら車で隣町まで買い物に出かけた。 帰りは違う道を通ってみようかと地図を眺めていると、峠を越えるルートがあるようだった。 行きは山を迂回する大きな道を通…

自宅で書道教室を開いている女性の話。 土曜日の午後、いつものように数人の生徒を相手に指導をしていると後から部屋に入ってきた男性がいた。 しばらく休んでいた生徒だったので、あら久しぶりじゃない、と先生は声をかけて席につかせた。 男性はすぐに硯に…

蛇口

夜勤明けで帰宅したKさんは、一眠りしようと布団に潜り込んだ。 数時間経って目を覚ますとどうにも視界がぼんやりしている。 確かに目を開いているのに、視界の上半分がどうにもぼやけてはっきり見えない。 目やにでも付いてるのかな、と両手で目をこすって…

BS11で『ユリ熊嵐』を観るとその後で『ラブライブ!』(再放送)をやっているので何となくそちらも見始めました。 なぜか『ラブライブ!』を観ていると脳裏に『水滸伝』がチラついてしかたがない。恐らくはどちらも仲間が続々集まってゆく展開だからでしょう…

Nさんは大学生の時にバドミントンのサークルに入っていた。 夏休み中、お盆明けの練習に友人のTさんが来なかったので電話をかけてみたが出ない。 携帯電話にメールを送ってもみたがやはり何の返答もないまま、翌日の練習にも来なかった。 それまでそんなこと…

目覚まし時計

新卒で就職したYさんは東京での研修を終えたあとで、盛岡支社での勤務をすることに決まった。 盛岡の社員寮に引っ越したが、その寮の部屋でおかしなことが起こる。 仕事を終えて部屋に帰ると、ドアを開けた瞬間に目覚まし時計のベルが鳴りだすのだ。 もちろ…

泥酔

花見の席でのこと。 会社の同僚たちで花見をすることになり、市内の公園にブルーシートを敷いて酒盛りが始まった。 そのうちに一人の男性が酔っ払ったと言って、数メートル向こうにあるベンチに歩いて行った。 先程から人一倍アルコールを口にしていたようで…

やってきた祖母

大学生になったばかりのTさんがアパートの自室で寝ていた時のこと。 突然誰かに揺り動かされて目が覚めた。 ベッドの脇に立っているのは母方のお祖母さんで、寝ぼけ眼のTさんに向かってこう言う。 「ほら、そこの棚が崩れそうだよ、危ないよ」 ベッドの枕元…

もう七草ですが明けましておめでとうございます。