風呂上がり

ある夜、奥さんが風呂に入っている間にNさんはPCで動画サイトを観ていた。
何本か短い動画を見終わった頃、ヘッドフォン越しに風呂場の扉が開閉する音が聞こえてきた。
奥さんが出てきたら次はNさんが入浴する番だが、奥さんが歯磨きと身支度をして出てくるまではもう少し間があるはず。
もう一本くらい動画を観ていよう。
Nさんはそう考え、新たな動画へのリンクをクリックした。
すると動画を見ている間にリビングの扉が開く音がした。
思ったより早く奥さんが出てきたようだった。まだ動画の残り時間は二分ほどある。
これ観終わったらすぐ入るから、とNさんは画面を眺めたまま言った。
――次の瞬間。
バンバンバンッ!
Nさんの座る椅子の背もたれが強く叩かれた。
うわっどうした!?
慌てて振り返るNさん。
誰もいない。いくら見回しても、家具の陰を覗き込んでも、部屋の中にはNさんひとり。
……じゃあ何だ今の。
奥さんのイタズラかと思ったが、風呂場へ行くと奥さんはまだ入浴中だった。
今リビングに来たか?と聞くと風呂に入ってからはまだ一度も出ていないし、風呂場の扉も開けていないという。
もしかして泥棒か不審者が入ったのかと家中を探し回ったものの、玄関も窓もしっかり施錠されていて家の中にはNさんと奥さん以外誰もいない。
ヘッドフォン越しに聞こえた音、そして椅子を叩かれたのは一体何だったというのか。
それ以来NさんはPCを使う時もなるべくリビングの扉に背を向けないようにしているのだという。