キュキュ、ダムッ

Wさんが仕事から帰ると、リビングで奥さんが難しい顔をしていた。
どうかしたのと尋ねると、奥さんはリビングの床に置いてあるものを指した。
バレーボールだ。しかもかなり使い込まれている様子で、あちこち表面が擦り切れている。
もともとWさんの家にあったものではない。
何これ、どこから持ってきたの?
Wさんの質問に対する奥さんの説明はこうだった。
夕方頃、電話がかかってきた。
奥さんが出たものの相手は何も言わない。
しかし何も聞こえないわけではなく、何か雑音がしきりに響いている。
キュキュキュッ。
ダムッ。
床を靴底がこする音と、何かが弾む音。
ああ、これは……体育館かどこかでバレーかバスケか、何かの球技をやっている音かな。
すると、その場にいる人の携帯電話が何かの拍子に誤ってうちの電話にかかってしまったのだろうか。
そう察した奥さんは、すぐに受話器を置いた。
そして振り返ったその時、足に何かが当たって転がった。
それがバレーボールだった。こんなものがいつの間に?
窓も玄関も閉まっているし、その日は誰も訪ねてきていない。
つい先程までそんなものは家の中になかったはずだし、外から勝手にボールだけが入ってくるはずがない。
電話している間に急に現れたとしか思えなかった。
まるで先程の電話の向こうで使われていたボールが飛んできたかのようだった。


これ、あなたが前から持ってたわけじゃないよね?
奥さんからの問いかけに、Wさんは首を横に振るしかなかった。心当たりなど全くない。
捨てていいものかどうか迷ってしまい、今でもそのボールはWさんが持っているという。