開けたままで

Fさんが当時付き合い始めた彼氏の家に初めて行った時のこと。
彼は2Kのアパートに住んでいたが、綺麗に整頓されていて気持ちのいい部屋だった。
しかしなぜか備え付けのクローゼットが全開になっていて、中の収納ボックスやら吊るした服やらが丸見えになっている。
面倒臭がって開けっ放しにしているのだろうか。整頓された部屋の中でなんだかそこだけがひどくだらしなく、異質に思える。
あれ、ちょっと気になるから閉めていい?とFさんが聞くと、彼は首を横に振った。
「いいんだ、開けたままで。閉めないでおいて」
彼がそっけなくそう言うのでそのままにしておいたが、その後も彼の部屋を訪ねるたびにいつも開いたままのクローゼットが気になって仕方がない。
それで何度目かに彼の部屋に行った時、彼が風呂に入っている間にFさんはそっとクローゼットの扉を閉めた。
これでよし、と満足したFさんが数歩退いて部屋の中央辺りでクローゼットを眺めたその時。
バンッ!
クローゼットの扉が勢い良く開き、壁に当たって跳ね返り、何度か往復運動して止まった。
あまりのことにFさんは短い悲鳴を上げてその場で腰を抜かしてしまった。
しかしなぜクローゼットの扉が開いたのか。
部屋の中にはFさんしかいない。
クローゼットの中から思いっきり誰かが扉を蹴っ飛ばしでもしたかのような激しい開き方だったが、クローゼットの中にはいつもの収納ボックスと服があるだけで、誰の姿もない。
どうして……。
へたり込んだまま絶句するFさんに、風呂から出てきた彼が言う。
「閉めちゃったんだ、あれ。閉めないでって言ったのに……」
何なのあれ……。
青い顔で尋ねるFさんだったが、彼はそれにははっきり答えない。
「閉めなければ何ともないから。気にしないで……っていうのは無理かもしれないけど、もうあれには触らないで」
Fさんは頷くしかなかった。


結局それ以降Fさんは彼の家から足が遠のいていき、やがて別れてしまった。
あんな変なことが起きる部屋に平気で住んでいる彼のことが怖くなったのだという。