路地もの

Fさんの職場の近くに細い路地があり、職場の三階にある休憩スペースの窓から見える。Fさんは休憩のたびに何となくこの路地のあたりを眺めるのが習慣になっていた。窓際のソファーに座って窓の外に視線を向けるとちょうどそのあたりが見えるのだ。ある時、気…

雨男

Sさんが高校生の頃、お父さんの運転する車で出掛けた帰りのことだという。急に大粒の激しい雨が降ってきて、ワイパーを動かしても前が見えにくいほどの状況になった。するとお父さんはあれっ、と声を上げて車を道端に停めた。お父さんは雨が吹き込むのも構わ…

夜犬

Kさんが転勤のため茨城から栃木に引越した。引越して二ヶ月ほどした頃、アパートの大家が来てこんなことを言う。Kさん、犬飼ってたりしてません?すぐに否定した。ペット禁止のアパートだし、犬など数年来触ってすらいない。大家の言うことには、他の住人か…

定期テスト

高校の定期テスト中のこと。生徒たちが答案と格闘している前に、監督役の先生がいる。五十代半ばの社会科の先生だ。先生は特に生徒たちに注意を向けるわけでもなく、本を読みながらじっと座っていた。そこへ前のドアからスッと誰かが入ってきた。それに気付…

みっちょん

Uさんの小学校の同級生にYちゃんという子がいた。UさんとYちゃんとは同じグループで遊ぶ友達だったが、Yちゃんの話の中にときどき、グループにいない子が出てくる。Yちゃんはその子のことをみっちょんと呼んでいた。同じクラスにも他のクラスにもそういう呼…

ジョギング

健康診断のたびに運動不足を指摘されていたTさんは、三十代半ばで一念発起して毎朝ジョギングすることにした。家から走って十五分ほどのところに霊園があり、Tさんの家のお墓もそこにあるので、そこまで行って手を合わせてから帰ってくる。別に目的地は他の…

叫び

真夜中のこと。Rさんがいつものように夫と幼い娘の三人で川の字になって寝ていると、夫が突然大声を上げた。 ああああああああああああ!! 横になったまま目を見開いて、ひどく怯えた様子で叫ぶ。その声で目を覚ましたRさんが宥めようとしたが、一体何がそ…

海天狗

釣り好きのKさんはよく海辺に釣りに行く。よく行くポイントでは同好の士と顔を合わせることも多く、そのうちの何人かとは連絡を取り合うくらいには親しい。あるとき釣りに行くと他に釣り人はいなかった。港の端の突堤で、いつ行っても数人は釣りをしているよ…

午後のロッカー

小学校で昼休み終了直後のこと。授業を始めようとしたところで、席が一つ空いていることに先生が気づいた。その席のF君は午前中の授業には出席していたし、給食のときにもいた。保健室に行ったという話も聞いていない。誰かF君のこと知ってる人は? と聞いた…

腐臭

深夜、Sさんがベッドに横になったところで鼻をつく臭いに気がつき、反射的に体を起こした。腐った魚のような嫌な臭いだ。寝室にそんな臭いのするようなものは置かない。部屋の外から入ってくるのかと思ったが、窓から顔を出してもそんな臭いはしないし、家の…

赤光

深夜、Fさんがベッドに横になってなんとなく寝返りをうったところで、赤い光が部屋に差した。まぶたを閉じていてもそんな感じがしたのだ。薄目を開けると部屋の反対側に小さな赤い光が横一直線に並んでいる。数えたら八個あった。何かの機械のランプが点いて…

窓の顔

Hさんは幼い頃から窓に顔が見えることがあった。ふと気がつくと部屋の窓のひとつに大きな顔が映っている。ガラス窓を覆うほどの大きな顔。男なのか女なのかもよくわからない。無表情に部屋の中を見つめているようでもあり、どこも見ていないようでもある。し…

お稲荷電車

都内の某駅でのこと。電車に乗って発車待ちの間、閉じている側のドアにもたれて何気なく窓の外に視線を向けていた。すると隣の線路に電車が入ってきて停まったので、隣の電車の車内を覗く形になった。その車内におかしなものがある。狐だ。稲荷神社の入り口…

ハイヒール席

Nさんが大学生のときのこと。大学の図書館の二階で勉強していると、どこかからカツンカツンと固い足音が響いてくる。ハイヒールかなにかを履いて歩く足音が二階のどこかを行ったり来たりしている。別に図書館にハイヒールを履いてきてはいけないという規則は…

天国

小学生の一時期、Rさんと友達は近所の神社を遊び場にしていた。長い石段の上にある境内は滅多に人がおらず、気兼ねなく騒ぐことができた。この神社で鬼ごっこをしていたときのこと。ある友達が鬼役に追われて社殿の裏に逃げていった。鬼もそれを追っていく。…

ティッシュペーパー

自宅のマンションでリモートワーク中だったEさんは、ふと気がつくと机に突っ伏していた。どうやら作業中に居眠りしていたらしい。いつ眠ってしまったのか、時計に目をやると午後三時過ぎだ。コーヒーでも淹れて気分転換でもしようと、腰を浮かせかけた姿勢で…

通るもの

Kさんは若い頃に交通事故を起こした。雨の日にスピードを出しすぎてスリップし、車が上下反転する事故だった。大怪我を負い、病院に担ぎ込まれて丸一日意識が戻らなかった。ひと月近く入院したが、それ以来奇妙なことが起きるようになった。入院中は病室の外…

木造アパート

埼玉から千葉に転勤が決まったYさんが引越し先を探していたときのこと。不動産屋に案内されたアパートの三階で、窓から外に目をやった。すると道を挟んだ向こうにも二階建てのアパートがある。その二階の端の部屋の窓が開いていて、中に人の姿が見えた。割烹…

無人浜

R君が高校生のとき、自転車で三十分ほどかけて通学しており、その途中で浜沿いの道を通った。その地点では三百メートルほどの長さで砂浜が道路の横に続いていたが、ある時ふと思ったことがあった。この砂浜――人がいない。近場の他の浜や岸では大抵どこでも釣…

泥足

Oさんが亡くなった祖父母の住んでいた古い平屋を取り壊して、そこに新しい家を建てた。家族でそこに引越したが、その日からOさんにおかしなことが起こり始めた。二階の部屋で寝ていると、真夜中に目が覚める。寝返りをうとうとしても体が動かない。金縛りか…

雪景色

Hさんのお祖父さんが危篤になった夜のこと。当時Hさんは中学生で、両親と一緒に隣県の病院に駆け付けた。到着して一時間余りでお祖父さんは息を引き取り、Hさんはお母さんの運転する車でお祖父さんの家に一旦引き上げることになった。お祖母さんもしばらく前…

生け垣

農家のTさんが野菜をお裾分けに、知人の家を訪ねたときのこと。野菜を手渡してからその家の奥さんと玄関先で立ち話をしていたところで、何気なく横に視線を向けると人の頭が見えた。玄関から庭を挟んで、道路との境に生け垣がある。その上から横を向いた人の…

物干し竿

Rさんが中学生の頃、お祖母さんが足を悪くし、一人では歩けないほどになってしまった。家に介護用のベッドが運び込まれ、お祖母さんはそこでほとんど寝たきりの生活になった。その頃から、家で奇妙なことが起きるようになったという。よくあったのは、家で知…

思い出の家

Kさんは経営していた会社が倒産したので、家を売ってなんとか負債に充てた。知人の紹介で隣県に仕事を見つけ、そちらに家族で引越したのだが、それから二年ほど経った頃のこと。Kさんが以前住んでいた家を買った人から、不動産業者を通じて連絡があった。Kさ…

釣れるポイント

Wさんという高校生が友人と二人で市内の川に釣りに行った。そこは大きいブラックバスがよく釣れるポイントだと人から聞いた場所で、葦が群生している岸の辺りなどは魚が潜んでいそうな雰囲気が確かにあった。ところが釣り始めてみると、何かおかしい。釣れる…

行列のできる商店街

Bさんの家は商店街から路地を入ったところにある。転職を機に知人の紹介で住み始めた家だが、買い物に便利なので気に入っている。裏通りなので買い物客の動線から外れていることもあって、住む前に心配していたほどうるさくないのもよかった。この家に引っ越…

いますか

あるときGさんが近所の人からこういうことを言われた。お宅の伯父さんに会いましたよ。Gさんの家のすぐそばで、にこやかなお年寄りに声をかけられた。「Gは家にいますか」と訊いてくる。それが近所の人も面識のある、Gさんの母方の伯父さんだった。Gさんが家…

焚き火

真夏のことだったという。Eさんが家の裏にある畑の隅で、お父さんと一緒にゴミを燃やしていた。家の中で出た可燃ゴミだけでなく、庭の木の枝や刈って放置していた草などを一箇所に集めて焼いた。周囲は森や畑で隣家が離れているため、Eさんの家ではゴミが溜…

髪切り

Oさんという女性があるときアルバムを眺めていて、ひとつ気になったことがあった。幼い頃の自分が、一時期丸刈り頭になっているのだ。その頃の写真にはどのOさんも青々と刈り込んだ頭で写っている。日付を確認すると三歳から四歳までの二年間ほど、ずっとそ…

裾の手

Hさんは一時期リサイクルショップで働いていたが、この店でたびたびおかしなことが起きた。ちょっと目を離した隙に物が移動しているというのは珍しいことではなかったし、閉店後の店内で裸足の足音だけが聞こえることも何度かあった。月に二度か三度くらいは…