南国の風

学生のEさんが夢を見た。周りに木が等間隔に並んでいる。畑だろうか。大きな葉が八方に広がる、南国の植物だ。照りつける日差しは強く、肌が焼けてしまうなと思ったが、木々の間を抜ける風が汗を乾かしてくれて心地よい。さらさらと葉が風に揺れる音を聞きな…

じゃれつきまだら

Eさんが高校生の時のこと。学校へ向かう途中、前を歩く同じ学校の男子生徒の足元に犬かなにかがさかんにまとわりついていた。子犬かな、かわいい、と思ってよく見ると犬かどうかよくわからない。白と茶色のまだらで、ふわふわしている。あるいはぼんやりして…

洟と靴下

Nさんが今のマンションに引越してから半年ほど経った頃だという。出かける時に玄関ドアを閉めると、いつも決まって洟をすするような音がすることに気がついた。引越した当初からそういう音がしていたかどうかはわからないが、気がつくと毎日その音を聞いてい…

白窓

真冬にHさんが自宅で過ごしているときのこと。ふと窓に目をやると真っ白になっている。雪かと思ったがそうではないことはすぐわかった。雪が積もって一面雪景色になっているのではない。窓一面が真っ白になっていて何も見えないのだ。そもそも雪の予報もなか…

トランペットとセーラー服

高校の吹奏楽部の話。近隣の二つの高校の吹奏楽部と合同で演奏会を開催した。本番は盛況のうちに終わり、会場となった文化ホールから撤収するときのこと。楽屋を片付けて、そこにいた数人全員が廊下に出た。中にもう誰もいないことをチェックしてから、副部…

二本足

Kさんが小学生の頃、お母さんが病気で入院していた。病状は思わしくなく、子供の目から見てもお母さんは徐々に弱っていっていた。そうしてある日、学校で授業中に教頭先生がKさんを呼びに来た。今しがたお父さんから電話があり、お母さんの容態が急に悪くな…

渦魚

Uさんが小学生の頃、家で犬を飼っていた。この犬の飲み水用に、プラスチックのボウルに水を入れていつも犬小屋の脇に置いてあった。ある時Uさんがこのボウルを確認したところ、縁までなみなみと水が満たされている。ちょっと入れすぎじゃない? お父さんが入…

駐車場の女

十年以上前、山梨に住むEさんが仕事で静岡に行った帰りのこと。夜の十一時を過ぎた頃にようやく山梨に入ったが、仕事と運転の疲れのせいか猛烈に眠い。ハンドルを握りながら今にも瞼が落ちそうだ。これではいかんとどこか仮眠を取るところを探すと、ちょうど…

老夫婦の記念写真

Gさんが一人で伊豆に旅行して、帰ってきた日のこと。旅先で撮ったデジタルカメラのデータを見返していると、途中でひとつだけ、覚えのない光景があった。写真の中央に老夫婦が並んで立っている。二人とも穏やかな表情でいかにも仲睦まじい夫婦といった印象だ…

吹雪手

風と雪が強い夜だったという。日没後から風がかなり強くなり、家が揺れるほどになってきたので窓のシャッターを下ろそうと窓に手をかけた。そこにパンッと軽い音を立てて、隣の窓ガラスに手のひらが張り付いた。手袋が飛ばされてきたのかと思って目をこらし…

夜の巨人

午後七時頃、Fさんが仕事から帰宅すると家に明かりがついていない。いつもなら妻と娘がいるはずの時刻だ。しかし家の中がしんとして人の気配がない。携帯にも特に連絡はなかった。台所や娘の部屋も覗いたが誰もいない。なにか急用で二人とも外出したのだろう…

電灯外し

ある朝Eさんがマンションの自室で目を覚まし、こたつの上に置いた眼鏡を取ろうとして異変に気がついた。こたつの上に眼鏡だけでなく、蛍光灯が載っている。ホコリを被った丸形の蛍光灯だ。なぜこんなものがここに、と天井を見上げると蛍光灯がついていない。…

武士坂

Kさんの住む街に落ち武者が出るという噂の坂がある。近隣では武士坂と呼ばれているが、これは俗称で正式な名前は特にない。住宅街の中にある緩い勾配の坂だ。幽霊か不審人物か正体は定かでないが、とにかくそこで鎧を着た落ち武者に出くわしたという話をKさ…

砂利道

Nさんの実家の近くに舗装されていない砂利道があり、見通しがよい一本道なのだが、通行者が少ない。舗装されていないから自転車で通る人がほとんどいないのは当たり前としても、車の通りも少ないし、歩いて通る人は更に珍しい。この道を通ると何か出る、とい…

ゆうた

大学生のBさんが講義中に居眠りした。大教室での講義だったせいか先生に見咎められることなく終了まで意識がないままで、終わってから友人に起こされた。すでに他の学生は教室から去っている。寝ぼけ眼のまま慌てて教科書とノートを片付けようとして、ふとノ…

解体工事

Eさんが民家の解体工事をしたときのこと。二階建てで築二十年くらいの平凡な民家だったが、重機で崩し始めたときに異変があった。カラカラとガラス戸を開け閉めするような音がするのだ。Eさんだけでなく、現場にいる者がみなこの音を耳にした。重機のエンジ…

毛皮

Tさんは小学五年生のときに親の仕事の都合で引越し、それに伴って転校することになった。新しい小学校は新居から歩いて十五分くらいかかるところだった。転校後ひと月ほど経ってその辺りの地理にも詳しくなってくると、近道にも見当がついてきた。途中にある…

くの字

Fさんは出産を控えて夫の実家に滞在することになった。当時Fさんの両親はすでに故人で、夫の母親を頼ることになったのだ。夫の実家は古い農家で、広い庭と古く大きい家があるものの、義父はずっと前に亡くなっていて義母が一人で暮らしていた。夫は仕事で忙…

鼻唄

Wさんが彼女の家の近くで待ち合わせをしたある朝のこと。道端のベンチに腰を下ろして彼女が来るのを待っていたところ、近くから誰かの鼻唄が聞こえる。男の声だ。しかし誰の声なのか、周囲に目をやっても姿が見えない。声はすぐ近くから聞こえているのに人の…

空家の探検

Kさんが中学二年生の時のこと。偶然、同じ町内に空家らしき古い家を見つけた。二階建ての平凡な家屋だが門に板が打ち付けてあり、なんだか物々しい雰囲気がある。自宅から徒歩で十五分くらいのところだが、通学路とは反対方向で普段あまり行かないあたりだっ…

信号待ち

Mさんが出張で遅くなった帰り道、途中のトンネルのすぐ手前で信号が赤になった。朝早くに家を出たのでもう今日はすぐ帰って寝たい。そんな気分だからか、信号が変わるのがいやに遅く感じられる。いつもは通らない道なので道順をあれこれ考えながら信号が青に…

発熱

高校のサッカー部でこういうことがあったという。練習中に部員が一人、突然崩れ落ちるように倒れた。呼吸が荒く熱が高い。意識はあるが顔が真っ赤で酷く苦しそうだ。すぐ保健室に担ぎ込んでベッドに寝かせた。救急車を呼ぶほどではなさそうだが家に連絡して…

裸足坂

台風の近づく雨の日のこと。Eさんが彼女の家に向かう途中、上り坂にさしかかった。風も出てきたので傘を煽られないように気をつけながら坂を登っていった。視線を路面に落としながら歩いていると、突然視界に裸足が現れた。道の脇に裸足の誰かが立っている。…

浜伸び

夕方に浜で釣りをしていた人の話。日が落ちかけて暗くなってきたのでそろそろ切り上げるか、と思ったところで視界の端に見慣れないものが映った。砂浜の向こうに長く突堤が伸びている。その先端に、真っ黒なものが立っている。先程釣りを始めたときにはあん…

顔老婆

Eさんの近所に空巣狙いの泥棒が入った。家の中が何箇所か荒らされていたが、確認してみると不思議なことに盗られたものはなさそうだった。銀行の通帳や貴金属など金目のものは手つかずだし、他にも失くなったものがない。警察に被害届は出したが、一体どうい…

シルエット

川崎で就職したEさんが長野の実家に帰省したときのこと。以前自分の部屋だったところは物置になっていたので仏間で寝た。ところが寒くて夜中に目が覚めた。布団はしっかりかけているのにどうにも手足が冷たい。手足が冷えているせいか、体がとても重たい。ど…

コーヒー好き

休日に本屋に行き、目当ての新刊を買ってから喫茶店に入ったときの話だという。席についてホットコーヒーを注文し、早速新刊を読み始めた。程なくしてコーヒーが運ばれてきたが、読み始めたところなのですぐには口を付けなかった。夢中で一章を読み終えて、…

おんぶ

都内で電車に乗ったときのことだという。平日の午後で車内は空いていた。座席に腰を下ろして発車を待っていると、隣の車両からドアを開けて誰かがやってきた。三十代くらいの女性で、スーツをきっちりと着こなし、颯爽とした足取りでこちらに進んでくる。し…

並走

ある人が原付で通勤するのをやめて車を買った。こんなことがあったせいだという。仕事帰り、ふと気付くと原付の真横に何かが並んで走っている。自転車だ。しかし誰も乗っていない。無人の自転車が原付と同じ速度でぴたりと横に付いて走っている。そんな馬鹿…

市民会館

市民合唱団に所属していた人の話。その合唱団では毎年秋に市民会館でコンサートを行うのが恒例になっている。五年ほど前のコンサート前日、市民会館で準備をしている最中にこんなことがあったという。楽屋が並ぶ廊下を三人で歩いていると、誰かがぜいぜいと…