泥足

Oさんが亡くなった祖父母の住んでいた古い平屋を取り壊して、そこに新しい家を建てた。家族でそこに引越したが、その日からOさんにおかしなことが起こり始めた。二階の部屋で寝ていると、真夜中に目が覚める。寝返りをうとうとしても体が動かない。金縛りか…

雪景色

Hさんのお祖父さんが危篤になった夜のこと。当時Hさんは中学生で、両親と一緒に隣県の病院に駆け付けた。到着して一時間余りでお祖父さんは息を引き取り、Hさんはお母さんの運転する車でお祖父さんの家に一旦引き上げることになった。お祖母さんもしばらく前…

生け垣

農家のTさんが野菜をお裾分けに、知人の家を訪ねたときのこと。野菜を手渡してからその家の奥さんと玄関先で立ち話をしていたところで、何気なく横に視線を向けると人の頭が見えた。玄関から庭を挟んで、道路との境に生け垣がある。その上から横を向いた人の…

物干し竿

Rさんが中学生の頃、お祖母さんが足を悪くし、一人では歩けないほどになってしまった。家に介護用のベッドが運び込まれ、お祖母さんはそこでほとんど寝たきりの生活になった。その頃から、家で奇妙なことが起きるようになったという。よくあったのは、家で知…

思い出の家

Kさんは経営していた会社が倒産したので、家を売ってなんとか負債に充てた。知人の紹介で隣県に仕事を見つけ、そちらに家族で引越したのだが、それから二年ほど経った頃のこと。Kさんが以前住んでいた家を買った人から、不動産業者を通じて連絡があった。Kさ…

釣れるポイント

Wさんという高校生が友人と二人で市内の川に釣りに行った。そこは大きいブラックバスがよく釣れるポイントだと人から聞いた場所で、葦が群生している岸の辺りなどは魚が潜んでいそうな雰囲気が確かにあった。ところが釣り始めてみると、何かおかしい。釣れる…

行列のできる商店街

Bさんの家は商店街から路地を入ったところにある。転職を機に知人の紹介で住み始めた家だが、買い物に便利なので気に入っている。裏通りなので買い物客の動線から外れていることもあって、住む前に心配していたほどうるさくないのもよかった。この家に引っ越…

いますか

あるときGさんが近所の人からこういうことを言われた。お宅の伯父さんに会いましたよ。Gさんの家のすぐそばで、にこやかなお年寄りに声をかけられた。「Gは家にいますか」と訊いてくる。それが近所の人も面識のある、Gさんの母方の伯父さんだった。Gさんが家…

焚き火

真夏のことだったという。Eさんが家の裏にある畑の隅で、お父さんと一緒にゴミを燃やしていた。家の中で出た可燃ゴミだけでなく、庭の木の枝や刈って放置していた草などを一箇所に集めて焼いた。周囲は森や畑で隣家が離れているため、Eさんの家ではゴミが溜…

髪切り

Oさんという女性があるときアルバムを眺めていて、ひとつ気になったことがあった。幼い頃の自分が、一時期丸刈り頭になっているのだ。その頃の写真にはどのOさんも青々と刈り込んだ頭で写っている。日付を確認すると三歳から四歳までの二年間ほど、ずっとそ…

裾の手

Hさんは一時期リサイクルショップで働いていたが、この店でたびたびおかしなことが起きた。ちょっと目を離した隙に物が移動しているというのは珍しいことではなかったし、閉店後の店内で裸足の足音だけが聞こえることも何度かあった。月に二度か三度くらいは…

場違い

二十年ほど前、福島でのことだという。山歩きに詳しい人が、知人から山菜採りの案内を頼まれて二人で山に入った。山菜やキノコのよく採れるポイントをいくつか回っていたところで、知人が何か変わったものを見つけたらしく、おやっと声を上げて離れたところ…

袴裃

車の販売店に勤めるFさんの同僚にUという男性がいて、あまり評判がよくなかった。仕事は人並みにはこなすものの、煙草も酒も人一倍呑み、博打も風俗も好きで給料の大半は遊びにつぎ込んでいるという噂だった。職場での人間関係に特に問題はなかったものの、…

卒業旅行の朝

Fさんは大学卒業を前にして、友人二人と一緒に伊勢志摩に二泊三日の卒業旅行をした。その二日目の夜に泊まったのは古い旅館で、三人が通されたのは本館とは渡り廊下で繋がった別棟だった。別館というよりは離れという様子で、襖で仕切られた二部屋の客室以外…

通行人(青)

Tさんの所属していた演劇部では毎年の文化祭で公演を行っていた。Tさんが二年生のときの文化祭でも三ヶ月前から準備していた演目が上演され、滞りなく終わった。ところが客席から舞台を観ていた脚本担当の二年生が、終了後にこんなことを言った。あんな青い…

道具部屋

Tさんは高校生のときに演劇部に所属していた。演劇部で使う大道具や工具は校舎内の部室ではなく、別棟のプレハブ小屋の二階に置いてあった。部員はここを道具部屋と呼んでいたが、ここに入るときには奇妙なルールがあった。中に人がいるかどうかに関係なく、…

窓拭き

Kさんが年末に自宅の窓拭きをしていた。一階の窓をひと通り拭いて、二階の窓に取り掛かった。寝室の窓を内側から拭き、それからベランダに出て外から拭いた。きれいになったので室内に入ろうとして、窓が開かないことに気がついた。よく見ると窓の半月錠がい…

西郷さん

Nさんは物心ついた頃から、ときどき身の回りで謎の男を見かけていたという。がっしりした体格で丸顔、短く刈り込んだ髪に太い眉で、まるで上野公園の西郷隆盛像である。むしろNさんは上野の西郷像のほうを後から知って、この顔あの人に瓜二つだなと思ったく…

砂浜の穴

Wさんが六歳の息子を連れて海に行ったときのこと。 海水浴シーズンが終わった後だったので砂浜に人は少なかった。泳ぐつもりはなく、それまで海を見たことがなかった息子に海を見せたかっただけだったので、二人で波打ち際を歩いた。 息子は大はしゃぎで貝殻…

隣の教室

高校で三年生が授業中のことだという。バタバタバタッ、と数人が廊下を走っていく足音、そして隣の教室のドアを乱暴に開ける音が響いた。足音の主たちは隣の教室の中へなだれ込んでいき、なにやらバタンバタンと跳ね回っているようだ。机や椅子を引きずるよ…

教授の客

Rさんが大学生のときのこと。教授に質問があって研究室に行くと、研究室のドアの前にスーツを着た老人が立っている。真っ白な長いあごひげを蓄えた禿頭の老人だ。彼が少し猫背になってドアをノックすると部屋の中から教授の声でどうぞ、と聞こえた。老人はド…

ポスト

Wさんが通勤で使う駅までの途中に郵便局がある。ある夜、帰りにその前を通りかかるとポストの投函口に白い物がはみ出している。街灯の光を受けて、白い手袋かなにかが投函口に挟まっているのが見える。誰かの悪戯か、あるいはうっかり忘れていったのか。どう…

胡瓜

バスで通勤するRさんが帰宅する途中のこと。窓際の席で外を眺めながらぼんやりしていると、通路側から声がした。「隣いいですか」どうぞ、と反射的にRさんは答えながらそちらに視線を向けたが、誰も立っていない。あれっ、俺に言ったわけじゃないのか返事し…

跳ねもの

Uさんが親戚の法事のために東京から山梨へ移動中、午前八時頃のこと。妻と二人、車で山道を走っていると前方の上空になにか浮いている。鳥かと思ったが近づくにつれてシルエットがはっきりしてきて、どうも鳥らしくない。どんどん大きく見えてくる。どうやら…

トラロープ

Kさんが結婚して間もない頃の話。夜中に散歩がてら近所のコンビニまで行こうとすると、妻も一緒に行きたいというので二人で家を出た。コンビニは歩いて十分ほどのところで、車で行くほどの距離ではない。もう午前零時を過ぎていて、あまりうるさくするのも良…

花柄の浴衣

Wさんの家の近所に農協があり、その駐車場の隅にもう何年もの間、同じ車が放置されていた。白いミニバンで、タイヤが全てパンクしている。農協の職員がどう考えているかわからないが、とにかくずっと同じところに置いてある。ある夜、帰宅途中のWさんがここ…

茶鳴り

高校生のEさんが放課後の教室で友人と話していた。そこへもうひとりの友人がやってきて会話に参加してきたが、すぐに怪訝な表情でこう言った。なにか鳴ってない?携帯かな、と確かめてみるが特に着信も通知もない。いやそうじゃなくて、なんかお祭りみたいな…

サッカーコート

Oさんが高校三年生の時の話。受験に向けて勉強に励んでいたOさんは、授業のない土日にも学校の自習室に通っていた。家でも勉強はできるものの、自習室には他にも勉強に来ている生徒たちがいるので、自分も頑張らねばという気分になれるからだ。ある土曜日に…

巾着

Kさんは高校卒業まで大阪で暮らしていた。三つ年上の姉がいて、小学校にも一緒に通った。そうして姉と並んで家に帰る途中に商店街があって、端の方に理髪店と肉屋が並んでいる。その境目でお爺さんが二人、道端に机と椅子を出してよく将棋を打っていた。そし…

神社の土塀

よく晴れた初夏の昼下がり、Eさんが友人との待ち合わせで公園にいた。公園の隣に神社があり、境界は長い土塀になっている。土塀に沿うようにベンチが置かれていて、Eさんはそこに腰掛けて友人が来るのを待っていた。スマホの画面を眺めながら時間を潰してい…