市営プール

Rさんはときどき、運動のために市営プールに泳ぎに行く。ここは屋内プールで一年中利用可能な上、住民割引と回数券割引で安く使えるからRさんも気に入って通っている。安いわりに夏休み中でもなければ大して混雑しないのもよかった。
施設内には二十五メートルプールが一つと子供用の浅くて小さなプールが一つずつあり、利用者は自由なタイミングで泳げる。
ただ十五分間隔でチャイムが鳴り、その都度水から出なければならないルールがある。コースを長時間専有することや事故を防ぐ目的なのだろう。
あるときRさんが泳いでいてチャイムが聞こえたので水から上がった。他に五人ほどいた利用者も次々と出てきている。
全員が水から出たら、また水に入るのは監視員の合図が出てからだ。
ところがその監視員を含めた職員たちがプールを眺めながら何やら話している。彼らの視線の先を見ると、プールに何か沈んでいる。
人だろうか、と思ったがそういうふうにも見えない。ただの灰色っぽいかたまりだ。それがプールの中央辺りの底に見える。
プールの底がライトブルーなので何かがあるのはよく見えるのだが、それが何なのかはわからない。
監視員が確認のためにすぐ水に入った。
すると、その灰色のかたまりが動いた。
端へ向かってゆっくり。
近づいてくる監視員から逃れるように。
そしてプールの端のあたりで、染み込むようにして見えなくなった。監視員は潜って探していたが、沈んでいた何かは見つからないようだった。


その日は安全確認のためにそこで急遽営業中止になったが、翌日からは何事もなかったかのように営業が再開したようだった。
あの灰色の物体についてはプール側からも特に発表はなく、わからずじまいだという。