ひとだま

 

Kさんの神奈川の実家には時々ひとだまが出る。
ある時Kさんが東京から帰省した。
玄関の前まで来てインターフォンのボタンを押そうとしたとき、視界の端にひらひら動くものが映った。
何気なく視線をそちらに移すと、細長いぼんやりしたものが地面の上で揺れている。
あっ、ひとだまだ。久々に見た。
灰色がかったかたまりが細長く尾を引いており、動きに従ってその尾がひらひらとなびく。
小動物のようにちょこまかと地面の上を滑り、またたく間に植木鉢の陰で消えた。

 


その家に一家で引越してきたのはKさんが中学一年生のときで、それ以来Kさんだけでなく、家族それぞれが家の周りでこのひとだまを何度も見ているが、複数人の前には決して現れず、一人でいるときに限って出るという。
写真を撮ってやろうと意気込んだこともあったが、カメラを設置しておいても一向に現れないし、目撃した時にカメラや携帯を取り出そうとしても間に合わずに一度も成功しなかった。
ひとだまと言えば空中を飛ぶイメージだが、Kさんの話の中だとひとだまは飛ばない。
飛んでいることはなかったんですか、と聞くとKさんは首をひねった。
いや、うちのは飛んでるところ見たことないですねえ。何でか、いつも地べたをうろついてます。