城山公園

Yさんが妻と二人でドライブに出かけた。
隣町に城山公園という、城址が公園になっている場所があり、高台で見晴らしがいい。ここで車を降りて一回りしようということになった。
桜並木が有名で花見シーズンには人混みでごった返すものの、このときはもう葉桜の時期で人の姿はほとんどなかった。
二人で少し散策したところで、妻がトイレに行くというので、Yさんは傍のベンチに腰を下ろした。
運転して少し目が疲れていたので下を向いて目を閉じた。すると数秒してすぐ隣に誰かが座った気配がある。
妻が戻ってきたのかと俯いたまま瞼を開けると、隣に見えるのは男のものらしき脚だ。灰色のズボン。妻ではない。
しかしどうも目が疲れているのか、視界がぼやけている気がする。
しかしぼやけているのは隣の男の脚だけで、自分の脚や地面ははっきり見える。
どういうことだ、と目だけ動かして隣の男をよく見ようとしたが、胸のあたりまでしか見えない。そして胸のあたりまですべてぼやけている。白っぽい服を着ているというくらいしかわからない。
なんだこいつは、と背筋に汗が吹き出すのがわかった。
何も気付いていないふりをしてすぐに立ち上がろうか、それともこのままじっとしているべきか。
迷っているところで肩に誰かが触れた。
弾かれるように振り向くと妻だった。なにあなた、寝てたの。行きましょ。
曖昧に返事をして立ち上がったが、見回すと周囲に他の誰かの姿はなかったという。