エビ

Oさんが中学生のとき、友人グループにHという男の子がいた。
クラスの中であまり目立たないほうの無口な子だったが、落ち着いてどこか大人びたところがあり、Oさんとは特に仲が良かった。
そのHが二年生の秋頃、学校を二日続けて欠席した。学校にも連絡がなく、先生が家に電話しても誰も出ないという。
次の日の朝、部活動の朝練で早く登校したOさんが鞄を置きに教室に入ると、席についたHの姿があった。
よう。なんで休んでたん? 風邪?
そう声をかけたが、Hはぼんやりとした目つきで「うん、うん」と曖昧な返事しかしない。
どうもまだ体調が悪いのか、顔色もおかしい。茹でたエビのような真っ赤な顔をしている。熱があるのか。
もう一日休んてたほうがいいんじゃないの、とりあえず保健室で寝てくれば?
そう語りかけたときに騒がしく他の友人たちが教室に入ってきた。彼らに声をかけてから視線を戻すとHの姿がない。教室のどこにもいない。
友人たちもHの姿は見ていないという。結局その日、HはOさん以外の前に現れなかった。


Hが見つかったと聞かされたのはその日の夜だった。
山の中に停めた車の中で、一家揃って亡くなっていたという。しかし朝に会ったばかりで、亡くなったと聞いても現実感がなかった。葬儀も行われなかったようだった。
中学生の頃は詳しいことを聞かされなかったのだが、大人になってから、それが実は練炭による一家心中だったことを知った。一酸化炭素中毒で亡くなると遺体の顔が紅潮するという。
だからあの朝、顔が真っ赤だったのか。Oさんは腑に落ちた思いがした。
そこで初めてHが亡くなったことが本当のことだと理解できて、ようやく涙が出たという。