ゆうた

大学生のBさんが講義中に居眠りした。
大教室での講義だったせいか先生に見咎められることなく終了まで意識がないままで、終わってから友人に起こされた。
すでに他の学生は教室から去っている。寝ぼけ眼のまま慌てて教科書とノートを片付けようとして、ふとノートの紙面に目が留まった。


ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた……


同じ言葉が繰り返し三行にわたって書かれている。覗き込んだ友人も怪訝な顔をした。
自分の筆跡のようだが、書いた覚えがない。居眠りしながら書いたはずはないが、居眠りする前に取ったノートの続きに書かれている。
ゆうたって誰だろう。ありふれた名前だが、知り合いにはいない。
気味が悪いので消しゴムで急いで消した。
「あーあ、消しちゃった」
背後から声がした。
友人と揃って振り向いたが、誰もいない。
今誰かの声したよね、と友人と顔を見合わせたところで、声が聞こえた方から駆け寄ってくる足音がする。
しかしやはり誰かの姿はない。
足音はあっという間にやってきて、ブワッと風が、というか空気のかたまりが勢いよく通り過ぎた。


Bさんと友人は慌ててその教室から逃げ出したという。