砂利道

Nさんの実家の近くに舗装されていない砂利道があり、見通しがよい一本道なのだが、通行者が少ない。
舗装されていないから自転車で通る人がほとんどいないのは当たり前としても、車の通りも少ないし、歩いて通る人は更に珍しい。
この道を通ると何か出る、というのが近隣で有名な話だからだという。
そのせいで夜に通る人がほとんどいないのはもちろん、明るいうちにも時折車が通る程度らしい。
知り合いの知り合いが見た人を知っている、というおぼろげな話ではなく、実際に見たという人が何人もいて、Nさんも見たことがある。


Nさんの場合はこうだった。
中学生の頃、まだここに出るという話を知らなかった。だから友達の家に遊びに行った帰り、ここを何気なく通った。
すると向こう側からおばあさんが歩いてくる。近所のおばあさんだ。
すれ違うときにこんにちはと声をかけて頭を下げた。
だがおばあさんの足が見えない。えっ、と視線を上げるとおばあさんの姿もない。
消えた!? と見回すとおばあさんは消えていなかった。
地上から1メートルほどの高さを同じ歩調で歩いていく。おばあさんが飛んでる。いや浮いてる。
一瞬呆気に取られたが、どういうことかと気になって追いかけようとした。
しかし踏み出したところでおばあさんの姿が見る見る薄くなり、夕焼け空に溶けるようにして見えなくなった。
思い返してみれば、近所にあんなおばあさんはいない。なぜひと目見て近所のおばあさんだと思ったかがわからなかった。


Nさんのお母さんやお父さんもこの道を車で通ったときにそれぞれ異なる奇妙なものに出会ったという。
お父さんは気味が悪いからここを通らないようにしているが、気にしなければ実害はないと言ってお母さんは頻繁に通っているらしい。