Fさんは定年退職後にボランティアで小学生の登校見守り活動に参加している。
毎朝通学路の途中の交差点に立ち、集団で学校に向かう小学生を見送るのだ。
春先の朝のこと。前夜の雨のせいで霧が濃かった。
いつものように交差点に立っていたが、見通しが極めて悪く、電柱一本分離れた程度で何も見えない。
事故が怖いので、近づく車の音に神経を尖らせながら小学生が来るのを待った。やがて子供たちの話し声が近づいてきて、霧の中から小さい影が続々現れる。
おはようと声をかけながらFさんが彼らが通り過ぎるのを見守っていると、その向こうで突然大きなものが動いた。
電車だ!
小学生が目を輝かせて叫んだ。
確かに電車らしきものが霧の中から現れ、二十メートルほど先を横切って霧の中へと消えていく。
ところがそんなところに線路など通っていない。住宅が並んでいるはずの場所で、最寄りの線路はもっと遠くにある。
じゃああれは何なのだろう。
呆気に取られながら眺めているとすぐに電車は通り過ぎてしまって、後には霧しか見えない。
何だか心配になってしまって、その日Fさんはそのまま子供たちを送っていったが、事故もなく無事に学校まで到着した。
帰り道では次第に霧も薄れてきたが、先ほど電車が通り過ぎていったあたりはいつもどおりの住宅が並んでいるだけだった。
帰宅してから気づいたことがあった。霧の中を電車が横切っていったとき、走行音が全くしていなかったのだ。
それで、やはりあれはこの世のものではなかったんだなと思ったという。