Eさんは学生の頃、パソコンで絵を描くのが趣味で、作品をインターネットのイラスト投稿サイトに載せていた。
彼女の作風は幻想的なもので、現実的な風景や人物に目を増やしたり腕を追加したりといった作品が多かった。
ある時、Eさんは数日間かけて新しい作品を描いていた。
満開の桜の下に子供が二人並んでいる風景で、桜の花の間から長く白い腕がにゅっと伸び、子供たちの頭を掴もうとしている。そんな絵だ。
なんとなくの思いつきで描き始めた作品だったが、描いているうちに気分が乗ってきて、細部を描き加えながら完成に近づいていた。
明日辺りに描き終えられるかなと思っていたところ、友人と一緒に大学の食堂で昼食を取っているときにこんなことがあった。
友人は言いづらそうな様子で口を開いた。
あんたさ、その、お祓いとか行っといたほうがいいんじゃない?
突然何を言い出すのだろう、とEさんは面食らった。お祓いを受けたほうがいいような心当たりがない。
何の話なのかと訊ねると、友人は一瞬上に視線を向けてから言う。
最近さ、見えるのよ、手が。天井のほうから白い腕がだらっと伸びてて、頭に触ろうとしてるの。
えっと思って見直すと消えてるんだけど、一度きりじゃなかったの。何回も見たの。
だから何かに取り憑かれてるんじゃないかと思って。
Eさんは愕然とした。頭の上から伸びてく白い腕。ここ数日自分が描いている絵そのものではないか。
しかしEさんは絵の趣味のことも、今現在描いている作品のことも友人たちには一言も伝えていない。あくまでもインターネット上の趣味として、リアルの人間関係とは区別していたのだ。
だから友人がEさんの作品について知ったうえで嘘や冗談を言っているはずはない。実際冗談を言っている顔ではなかった。
Eさんはその日帰宅すると描きかけの作品データを消した。その作品を描いている自分の頭の中が現実に漏れ出てしまっているように思えて、急に気味が悪くなったのだ。
友人によればその日以降は白い腕を見ることはなくなったという。