つないだ手

Nさんが小学生のときのこと。
両親と一緒にデパートに出かけた。Nさんは迷子にならないように、お父さんとずっと手をつないで歩いていた。
お母さんはちょっと見に行きたい売り場があるということで二人を置いてどこかに歩いて行ってしまい、Nさんはお父さんに連れられて文房具売り場に行った。
しばらく文房具を眺めながら過ごしたがお母さんはなかなか現れない。飽きてきたNさんはお父さんに向かってつまらないからどこか他の所に行こうよと言った。
お父さんは、もう少ししたらお母さんも来るからそうしたら美味しいものを食べに行こうと言う。
仕方がないのでお父さんの手を握ったままぼんやりとお母さんを待っていると、少しして近くからNさんを呼ぶ声がした。
お父さんがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。どこ行ってたんだ、探したぞと言っている。
えっじゃあこっちは誰なのとつないだ手を見ると、握っていたのは肩からすっぱり切り落としたような腕だけだった。
驚いて手を離すとその腕は陳列棚の向こうに引き込まれるように見えなくなった。向こう側を覗いても誰もいなかったという。