• 近所の橋の上に大きな魚が転がっていた。十日前くらいの話である。鳥が落としていったのだろうか、或いは車の荷台から落ちたのだろうか、とその時はそれくらいの可能性しか思い浮かばなかった。車の通りが多い道で、歩道はまた並行した別の橋があるから誰にも片付けられることなく、魚はその場で干からびていく様子だった。
    • 三日ほど前のことである。夜十時すぎにその橋を通りかかった。すると、対向車線の方の欄干に誰かが跨っている。すわ飛び込みか、とよく見てみると、どうやら釣り竿を持っていることからして釣り人らしい。橋脚の根本付近は魚が集まりやすいらしいから、おそらくその辺りを狙って釣り針を垂らすつもりなのだろう。橋の上から水面まで十五メートルくらいあるから転落したら只では済まないだろうが、好きでやっているのだろうからと思ってその場を通り過ぎた。
      • 翌朝、同じ道を通った時のこと。昨夜釣り人がいたあたりに、五匹ほどの魚が転がっていた。十日前に魚が転がっていたのともほとんど同じ場所である。それで一連の出来事が一本に繋がったように思えた。おそらくはいずれの魚もあの釣り人が釣り上げてそのまま棄てていったのだろう。時々河川敷の方で釣り人が棄てた魚を見かけることがあるが、それと同じことだったらしい。
  • 棄てられた魚達の無念がさかなクンさんに憑依して釣り人達に襲いかかる。「――哺乳類よ、脊椎動物の先達が誰なのかを教えてやる」炸裂する魚類拳法。エラ呼吸を忘れた人類に、対抗する手段はあるのか?