蛍光灯

Hさんが学生の時の話だという。
遅くに帰宅して、自室で着替えようとしたところ、部屋の灯りが点かない。
ドアのすぐ脇にあるスイッチを何度もオンオフしてみるものの、部屋は暗いまま。
蛍光灯が切れたのかな?とうんざりしながら更に何度かスイッチを連打すると、急に明るくなった。
どこか接触が悪かったの?などと思いながらほっとして天井の蛍光灯を見上げたHさんは、奇妙なものをそこに見た。
Hさんの部屋の蛍光灯は、円形の蛍光管をドーム型のシェードが覆っている構造になっている。
そのシェードの内側に、黒く影ができている。
何かが中に入っているようなのでよく見てみると、はじめは大きな蜘蛛に思えたという。
しかし蜘蛛などではなかった。足が五本しかない。
人の手のひらがそこにあった。
……何これ、手袋?
もっとよく見てみようと背伸びをしたその瞬間、ふたたび部屋は真っ暗になった。
慌ててもう一度スイッチを点けようとHさんが振り向くと、何もしていないのにまた灯りが点いた。
また見上げた時には、シェードの中には手のひらなど影も形もなかった。
ただ、翌日になってからシェードを外してよく見てみると、内側に溜まった埃の上に手のひらの跡がひとつだけ付いていた。
幼い子供が付けたような小さな手の跡だったという。