Fさんという女性から聞いた話。
一月のある夜、Fさんの弟の妻である義妹が訪ねてきた。
「お義父さんお義母さんの位牌を預かっていただけませんか」
弟夫婦はFさんの実家で二人暮らしだ。Fさんの両親の位牌が納められた仏壇もそちらにある。
しかしその位牌を預かってくれとは、急に何を言い出すのだろう。
どういうわけでそんなことを、と聞き返したものの、義妹はとにかく預かってほしいの一点張りだ。
義妹は若い頃から筋道だった話し方をする人で、こんなふうに理由も言わずに押し通そうとするのは珍しい。
何か困ったことでもあったのだろうか、と訝しみながらもとにかく事情もわからないのにそんな大事なもの受け取れないわよ、と答えた。
そこで目が覚めた。
体を起こしてからも、義妹が訪ねてきたことが夢だったのか現実だったのか曖昧なくらいにリアルな夢だった。
変な夢だったと思いながらも、お盆に顔を合わせて以来弟夫婦と連絡を取っていなかったことを思い出したので、昼に電話をかけてみた。
しかし出ない。
出かけているのかと思ったが、そうではないことが後でわかった。
弟夫婦は一酸化炭素中毒で二人揃って意識を失い、朝方に救急車で搬送されていた。ストーブの不完全燃焼が原因で、幸い近所の人が気づくのが早かったので二人とも半日で帰宅できた。
位牌を預かってほしいというのはそういうことだったのか。
あのとき夢の中で位牌を受け取ってしまっていたら。
――果たして二人は帰ってこれただろうか。
そう思うとFさんは背筋が冷たくなったという。