2018-01-01から1年間の記事一覧

落指

ある人が庭木の剪定をしていた。 金木犀の枝を鋏で切っていると、枝と一緒になにか白っぽいものが足元にぽとりと落ちたのが見えたので、視線を下げた。 目を疑ったという。落ちているのは人の指だった。 まさか、と思って自分の手を見たが、指は揃っている。…

絞められる

大学生のWさんが友人の家で飲み会をした夜のこと。 男四人で集まったうちの一人は早々に酔っ払って床に横になるなり寝息を立て、その傍でWさんを含む残りの三人が談笑しながら飲み続けていた。 すると深夜一時頃、寝ていた一人が急に身を起こして荒い息を吐…

南校舎

Oさんは高校生の時に軽音楽同好会に所属していた。 教室棟にある音楽室は吹奏楽部が使うので、同好会の練習は南校舎と呼ばれる別棟の二階で行われていた。この南校舎では時々変な出来事が起きたのだという。 ある日の夕方、Oさんが練習に行ったときのこと。…

霧の橋

Mさんが車で通勤する道の途中にK大橋という長い橋がある。 夜九時頃にここを通りかかったところ、川の上には霧が出ていた。そのせいで橋の半分ほども見通せない。 今夜は冷えるんだな、と思いながら橋を渡り始めたMさんだったが、すぐに見慣れないものに気が…

池の水

Uさんが小学生のとき、一度だけこんなことがあったのだという。 共働きの両親は出勤が早く、それに合わせて朝食も早いので、Uさんも一緒に朝食を食べてから親と同時に家を出て、六時半くらいにはいつも学校に着いていた。 その日はよく晴れた朝で、少し風が…

入り江の車

海辺に住んでいた人から聞いた話。 家から徒歩五分のところに入り江があり、時々そこで貝やカメノテなどを採って食卓の足しにしていた。 ある日の夕方にまた貝でも採ろうとしたところ、入り江の砂浜の上に一台の車が停まっているのが見えた。白っぽい色のワ…

靴下

幼い頃からSさんは扉の隙間が嫌だったという。ぴったり閉まっていない扉に数cmの隙間があると、それがたまらなく嫌に感じていた。 几帳面なためではない。そうした隙間があると、決まってそこに靴下を履いた足が見えるから嫌なのだという。 隙間の向こうに見…

ドアチェーン

Mさんがアパートで一人暮らししていた頃のこと。 夜十一時頃、仕事から帰宅して夕食も兼ねた晩酌を楽しんでいたMさんだったが、飲んでいるうちに催してきたのでトイレに行った。 用を足してから台所でコップに水を汲み、それを飲もうとしたとき。 目の前の玄…

天井くだり

Tさんは小学生の頃、姉と同じ部屋で寝ていた。そうして時々、おかしなものを見た。 なぜか真夜中にふと目が覚める。暗い部屋の中で上からカタンと音がする。 天井の端の板が外れて、開いた黒い穴からパジャマ姿の姉が顔を覗かせる。 姉は穴の縁に手をかけて…

水浴び

Eさんはアパートの二階に住んでいて、部屋の窓からすぐ下に隣の家の天水桶が設置されているのが見える。 時々この天水桶に野鳥が水浴びに来るようで、部屋にいるEさんの耳にも水がバチャバチャはねる音が届くことがある。 休日の午前中にEさんが部屋で過ごし…

宅配便

夕方、玄関のブザーが鳴ったのでWさんが出ていくと宅配便だった。 通信販売で注文した品物が届いたようで、喜んで受け取りのサインを書いていると、配達員の脇をすり抜けて誰かが玄関から中に入ってきた。 配達員はその誰かに頭を下げて挨拶をしたが、一方の…

手を振る

Mさんが家族でドライブを兼ねた買い物に出掛けた。 利根川の堤防沿いの道を進んでいると、後部座席に乗っている幼い長男が前の車を指差して言った。 手、振ってるよ。 その言葉に前を走っているワゴン車をよく見ると、後ろの窓越しに小さな子がにこにこ笑い…

ぬくもり

春先の深夜、Sさんがベッドに横になった時、妙なぬくもりを感じた。 風呂上がりでSさんの体も温まっている。だがそれ以上に布団が温かく感じるのだ。 まだ寒い季節だから、布団が温かいのは嬉しい。だが暖房もつけていないのに布団がひとりでに温まっている…

対岸の電車

Fさんは就職して二年目の夏、学生時代の友人を訪ねて新潟に行った。 友人の家は富山との県境に近い山間で、電車を下りてから更に迎えに来てくれた友人の車で一時間近くかかった。 友人のご両親も暖かく迎えてくれて、離れが空いているから今晩はそこに泊まっ…

叔父の家

Yさんは亡くなった叔父が住んでいた家を見に行くことにした。 母方の叔父はその前年、五十代の若さながらガンで亡くなった。母方の祖父母も既に亡くなっていたため、未婚の叔父の遺した一切は唯一の血縁者であるYさんの母が相続することになった。 その頃Yさ…

夜中の宴会

家族で京都に旅行した人の話。 初日の夜、ホテルで寝ているとなんだか騒がしくて目が覚めた。 ベッドの上で身体を起こすと奥さんと娘さんもほぼ同時に起き上がった。三人とも一斉に目を覚ましたらしい。 騒がしさの元は何だ。見回してみると異変に気がついた…

はてなダイアリーがサービス終了するというのではてなブログに移転しようか、それともblogは辞めて書いたものはカクヨムあたりに投稿するようにしようか思案中です。

友人の葬儀

高校時代の友人が事故で亡くなり、Nさんは葬儀に駆けつけた。 郷里の千葉から都内の大学に進学し、そのまま東京で就職したNさんは高校を卒業してからその友人には一度も会っていなかったのだが、高校生の頃には親しい同級生のひとりだった。 まさか卒業式が…

潰れるもの

Kさんは同棲して三年目になる彼氏と大喧嘩をして、興奮したまま衝動的に部屋を飛び出した。 日曜日の午前中、それなりに人通りのある街を行き先もはっきりしないまま歩く。 外の空気を吸って身体を動かせば少しは気が紛れるかと思ったが、早足で歩いても一向…

旅行写真

Nさんが親戚のおばさんを訪ねた時の話。 おばさんは少し前にフィリピンを旅行したという。 デジカメは撮るのには便利だけど、データだけで残しておくと見るのが億劫になっちゃって、やっぱり気に入ったのは印刷しておいたほうがいいのよねえ。 おばさんはそ…

張り付く

Yさんは大学生の夏休み、付き合っていた彼女を連れて実家に帰った。 彼女も両親とすぐに打ち解け、二日間和やかに過ごしてから大学のある福島へ戻る途中のこと。 Yさんの運転する車で、家を出て一時間ほどで海沿いの道に出た。もう時刻は五時近かったが、真…

砂の円錐

Yさんは家の近くの砂浜で奇妙な物を見つけた。 円錐形を逆さまにしたような形に砂が固まって立っている。 前の晩は風が強くて波が荒れていた。そんな翌朝は色んなものが浜に打ち寄せられていることが多い。 その朝も何か面白そうなものがないだろうかと、Yさ…

空き缶

Kさんが自宅で寝ていると、外からカラカラとやかましい音がして目が覚めた。音が耳についてまた眠ろうとしても寝付けない。 時計を見ると夜の一時。こんな時刻に一体なんだよ迷惑な、と腹を立てながら窓から外を見てみたが、暗くてよくわからない。 ただ、家…

マンションの七階に住むNさんの話。 ある時ふと気がつくと、ベランダに何か黒い小さな粒がいくつも散らばっている。 摘み上げてみるとどうやらそれは何かの植物の種のようだった。角ばった黒っぽい種だ。しかしどこからそんなものが出てきたのか。 Nさんはベ…

山栗

Eさんが中学生のときの話。 部活動が休みだった放課後、なんとなく気が向いて近所の山に出かけた。 小さな山でそれなりに整備された山道があり、犬の散歩をさせている人もよく見かけるような場所だ。Eさんも幼い頃からよく遊び場にしていた。 ぶらぶらと一人…

昔の男

物心つく前に父を亡くしたFさんは、ずっと母と二人で暮らしてきた。 母は懸命に働いてFさんを育ててくれた。時折機嫌の悪い様子を見せることはあったが、子供の前で不平を漏らしたり子供に八つ当たりしたりということは全くなかった。 Fさんが小学五年生の頃…

失くした眼鏡

Oさんはある朝起床して顔を洗い、眼鏡をかけようとしたが見当たらない。 ひどい近視でかなり乱視でもあるOさんは、眼鏡がないと外出すらままならない。いつもは寝る前に机の上に眼鏡を置くことにしているのだが、この朝にはそこにもないし、マンションの自室…

騒ぐもの

Nさんは大学を出て県庁に就職したが、激務と人間関係のトラブルのため体調を崩し、三年足らずで辞めて実家に戻った。 通院しながら次の仕事を探すことにしたが、どちらも思わしくないまま半年ほど過ぎた。 気を使ってか再就職を特には催促しない両親には申し…

どんぐり

Eさんがそろそろ夕食の支度をしようと思ったところで、小学生の長男がどんぐりを拾って帰ってきた。 十や二十ではきかない数をポケットやランドセルに詰めて満足気だ。 仕方ないわね、と呆れながらEさんはビニール袋を長男に渡し、散らばらないようにどんぐ…

草むしり

高校生の頃、Mさんは友人たちと学校をサボって遊び歩くことがよくあった。 ある日の午前中も授業に出ずに公園で友人たちと煙草を吸っていた。 この公園は学校からも離れているし、住宅地に近い割にはあまり人の姿もないためMさんたちには都合が良かった。 そ…