Eさんが民家の解体工事をしたときのこと。
二階建てで築二十年くらいの平凡な民家だったが、重機で崩し始めたときに異変があった。
カラカラとガラス戸を開け閉めするような音がするのだ。Eさんだけでなく、現場にいる者がみなこの音を耳にした。
重機のエンジン音や建物を破壊する音、飛散を抑えるための放水音、様々な音がなっている騒々しい現場だ。
それにもかかわらず、カラカラ、カラカラという軽い音が騒音に混じって断続的に聞こえてくる。重機の運転をしている者までこれを聞いたという。運転席でもはっきり聞こえたらしい。
方向から考えると崩している家の中から聞こえてくるように思える。しかし窓ガラスは前もって外されているし、窓の開閉する音など普通は騒音に掻き消されて聞こえるはずがない。家の中に残っている人がいないことも確認済だ。
音は、家がすっかり崩れ去るまで続いた。
おかしなことはまだあった。Eさんがその日の夕方、作業着を着替えようとしたときである。
隣で着替えていた同僚がEさんの背中を見て言う。なんか首のあたり腫れてねえか?
そう言われてみると背中がなんとなく痒い。シャツを脱いでみると、さらに同僚が驚いた。
首から背中にかけて、幾筋もミミズ腫れが斜めに走っている。まるで爪で引っ掻かれた痕のようだ。
Eさんだけではなかった。その日、解体工事に参加した同僚が何人も背中に同様の痕ができていた。
作業着を着ていたので背中に擦り傷ができるようなことは考えにくいし、そもそも直接瓦礫処理に関わっていなかった者の背中にも傷ができている。
いつ、どうしてそんな傷ができたのか誰にもわからなかった。
余談がある。
このとき解体された民家というのは、「空家の探検」のKさんの実家の近くに建っていた。
Kさんにも確認してみたが、この民家がまさしくKさんが中学生の時に探検した空家であるという。
同じ家を舞台に、奇妙な体験談が複数存在するのは偶然だろうか?