空家の探検

Kさんが中学二年生の時のこと。
偶然、同じ町内に空家らしき古い家を見つけた。二階建ての平凡な家屋だが門に板が打ち付けてあり、なんだか物々しい雰囲気がある。
自宅から徒歩で十五分くらいのところだが、通学路とは反対方向で普段あまり行かないあたりだったからそれまで存在を知らなかった。
家族に何か知っているか聞いてみたところ、以前ある一家が住んでいたが彼らが引越して以来何年も空家のままだという。引越した理由というのが、まだ幼い子どもが大怪我だか重病だかで長期入院することになり、家を売って病院の近くに移ったということらしい。
Kさんは母親から、あんた勝手に入って悪戯したりするんじゃないよ、と釘を差されたが禁じられれば行きたくなる年頃だ。
早速部活が休みの日の放課後、一人で空家に向かった。
門には相変わらず板が打ち付けてあったが、そこに続く板塀はところどころ傷んでおり、隙間が空いている。初めて見たときにここからなら入れそうだと思ったことも、入ろうとした理由の一つだった。
ところが家の方は戸締まりが厳重で、侵入できそうなところがひとつもない。これにはがっかりした。
玄関は当然として、裏の勝手口も固く施錠されていた。窓に至っては施錠された上にカーテンも隙間なく閉まっている。中が覗けそうなところすらない。
家の他には荒れて雑草が蔓延る庭しかなく、物置もない。仕方なく家の周りを一周しながら庭を見て回ったが、特に興味を引くようなものがない。
早々に飽きたので人に見られないうちに塀の破れ目から抜け出し、コンビニに寄って雑誌を立ち読みしてから帰った。

 


翌日、学校で友人がにやにやしながら話しかけてきた。
昨日お前コンビニにいただろ。一緒にいたのって誰?
そう言われても心当たりがない。コンビニではひとりで立ち読みしてそのままひとりで帰った。誰かと会った覚えはない。
そう返事すると友人はそんなはずはないという。
いや一緒にいたじゃん。隣にいて仲良さそうに肩組んでたし。
肩を? 誰と? 自分が?
それ、相手はどんなやつだったと訊くと、高校生くらいの姉ちゃんだよ、隠すなよと友人はいう。
なんと言われようと、昨日は空家から家までずっと一人のはずだった。