塀の事故

Fさんの家の近くに少し変わった塀があるという。
幹線道路に面した立派な家を囲む、古びたブロック塀なのだが、一角だけが他と様子が違っている。そこだけが真新しい板塀になっているのだ。
なぜそこだけ木の板で組まれているのかというと、そこだけ頻繁に車がぶつかって壊れるので、ブロックを積むのを諦めたのだという。
見通しの良い一本道で、わざとハンドルを切ったりしなければ塀にぶつかるはずがないのだが、それでもその場所に衝突する車が後を絶たない。事故を起こした人の話として聞いた噂では、猫か何かの動物が道の脇から飛び出してきて、それを避けようとして塀に衝突したのだという。
それが本当かどうかはともかく、事故が頻繁に起きているのは事実なので、Fさんは車に乗っているときにはその道を避けて通っていた。

 


あるとき、徒歩でそこを通りかかったFさんは目の前で事故が起きるところを目撃した。
Fさんの後ろから走ってきた車が例の塀の前に差し掛かったところで、道路の反対側から白っぽいものが勢いよく飛び出してきた。
それを避けようとした車はブレーキ音を立てながら板塀に直撃して停まった。
飛び出してきた動物はもういなくなっていたが、事故の一部始終を目撃したFさんからはその姿がはっきり見えていた。
それは猫ではなかった。
猫くらいの大きさの、四本脚で走る、まだら模様のついた小さなおじさんだったという。