黄色

Nさんが中学生のときのことだという。
一人でお墓の掃除に行っていた祖母が帰ってきたのだが、様子がおかしい。玄関の上がり框に腰掛けて、ぼんやりしている。
少し経ってから祖母が話した経緯はこうだった。
お墓に着いたときには他に人の姿はなかった。
墓石の周りの草を抜き、墓石の苔を洗って、持っていった花を活け、線香をあげて手を合わせたところで祖母はもうひとりの人の姿に気づいた。
二列ほどむこうのお墓のところで、祖母の方に背を向けて男の人が立っている。うなだれたような姿勢でじっとしているので、手を合わせているのだろうと祖母は思った。
祖母は持ってきた花の包みや抜いた草をまとめてから立ち去ろうとしたのだが、そこでふと視界の端に違和感を持った。
先程の男が、変な色になっている。最初に見たときには白いシャツにグレーのズボンを履いたありふれた姿だったのに、今は違う。頭から足まで、全身鮮やかな黄色をしている。塗ったように黄色一色だ。男の周囲にも黄色い霧のようなものが漂っているように見える。
姿勢はずっと変わらずうなだれたまま墓石の前で動かない。
これはおかしいと思った祖母は、声をかけてみようかと迷いながら通路を回り込んで男に近づいていった。
するとまた何やら奇妙な感覚を味わった。近寄っているはずなのに、男がどんどん遠ざかっていくように見える。黄色い男が遠くなっていく。
そうではなかった。遠ざかって見えるのは、男が次第に小さくなっていくからだった。
あっ、と祖母がそれに気づいて足を早めたときにはもう男は膝丈よりも小さくなっていて、すぐにもっと縮んでいってほんの数秒で見えなくなった。


それで、帰ってきてからなんでぼんやりしてたの、とNさんが尋ねると、祖母は目を細めて考え込むように言った。
それがねえ、なんとなくその人をどこかで見たような気がしてるんだけど、どこで会った人だったか、ずっと思い出せないのよね。帰ってくるまでずっと考えてたんだけど。
後でNさんも家から歩いて十五分ほどのお墓に行ってみたが、特に変わったところはなかった。