山のビル

Rさんの祖母の三回忌で親戚が集まったときのこと。
初夏のよく晴れた日で、窓を開けて爽やかな風を入れながら仏間で祖母の思い出などを和やかに話していた。
トイレに行って戻ってきた叔父が元の位置に座ろうとして、ふと窓の外を見ながら訝しげな声を上げた。
あんなところに新しいビル建ったのか。なんの建物?
その言葉を聞いて、一同も窓の外に視線を向けた。窓から見える山の稜線に、大きな建物が見える。
直方体の建物で、何階建てなのか、ずいぶん縦に長い。壁全面が暗い銀色で鈍く光を反射している。
なんだ? あんなの知らないな。Rさんの父が言う。
その家に住んでいるRさんも両親も毎日山を見ているが、そんなものがあるのを見たことがなかったし、建てているところも目にしていない。
大きな建物が突然現れたとしか思えなかった。
おかしいのはそれだけではなかった。
銀色のビルはゆっくりと左右に揺れている。揺れながら、次第に位置がずれていく。
下は木々に隠れて見えないが、まるで歩いているかのように移動していく。
ビルが稜線の向こうに姿を消すまでの数分間、親戚一同は呆気にとられながらそれを眺めていた。
Rさんは咄嗟にスマホで撮影しようとしたのだが、なぜか動画にビルの姿は一切写っていなかったという。