タケノコ掘り

Kさんが知人に誘われてその知人の持ち山にタケノコ掘りに行った。
タケノコを掘るのはそれが初めての体験だったが、爽やかな風が竹林をさらさらと鳴らすのが心地よかった。
教わりながら三つほどタケノコを掘り出した頃のこと、出し抜けに声をかけられた。

 


「なあ、ちょっと」

 


知人が言ったのかと思い、そちらを振り向くと驚いた顔をしている。自分が言ったんじゃないと首を振った。

 


「なあ、おいって」

 


同じ声がした。知人とは別の方向からだ。そちらに目を向けても誰もいない。
聞こえましたか、と聞くと知人は真剣な顔で頷いた。竹の葉がざあっと音を立てる。
竹はそこらじゅうに伸びているが、人が身を隠せるようなところはない。誰が話しかけてきているのかわからない。
誰か他にいるのか、と見回したところで変なものが見えた。
数メートル先に生えている竹の横から、人の手首が出ている。当然ながら、竹に人が隠れるほどの幅はない。
竹の向こう側に誰かがいるとは考えられないのだが、確かに手首が見える。
爪を真っ赤に塗った、肌の白い、おそらく女の手。塗ったばかりのマニキュアを乾かすように、ぱっぱっと指を振っている。
Kさんは黙ったまま知人と頷き合い、急いで山を下りた。
途中、何度か後ろから声をかけられたように思ったが一度も振り返らなかった。