吹雪手

風と雪が強い夜だったという。
日没後から風がかなり強くなり、家が揺れるほどになってきたので窓のシャッターを下ろそうと窓に手をかけた。
そこにパンッと軽い音を立てて、隣の窓ガラスに手のひらが張り付いた。手袋が飛ばされてきたのかと思って目をこらしたが、手のひらのしわや指紋まで見える。
生々しい人の手だ。作り物とも思えない。
しかし腕はない。手首から先だけがある。血は出ていないが断面は覗き込みたくない。
手首だけでどうやってくっついているのかわからないが、ずり落ちたりせずに同じ場所に張り付いている。
窓に手をかけた姿勢のまま固まって数秒間それを見ていたが、すぐに奇妙なことに気がついた。
ガラスの外には網戸がある。張り付いた手首はガラスと網戸の間にある。
網戸をすり抜けてガラスに張り付いたのだろうか。
このことに気づいてしまってからはもう窓を開けるのが怖くなって、窓から手を離した。後ずさるように窓から離れる。
窓の外を見回したが、吹雪の中に誰の姿もない。
風は依然強く、雪が網戸に吹き付ける。一際強い風が吹いてきて家がズシンと揺れた。
その拍子に窓の手首がぺらりと剥がれてどこかに飛んでいった。
一瞬のことで、手首が網戸をどう通り過ぎたのかはよく見えなかった。
シャッターを閉めるかどうか迷ったが、あの手首が入ってきたりしたらと思うと窓を開ける気にはなれなかったという。